後編
カザールは棟を出て、入り口に止めてあった馬車にララを乗せる。
「あの・・これからどちらへ?」
「あぁ。私の宮殿に来てもらおうと思ってね。ちょっと込み入った話があるんだ。」
彼の姿は、いつもと同じようでどことなく違うように感じる。少し表情が硬く感じるのは気のせいだろうか?
カザールの住む宮殿は徒歩では30分以上かかってしまうため、馬車に乗り移動したのだった。
王宮のそれぞれの宮殿は、どれも伯爵家の邸宅よりも大きく素晴らしい造りになっている。カザールの宮殿は3階建てで、一体いくつ部屋があるのか見当もつかない。
応接室に案内され、ソファに腰掛けるとカザールの側近のアルベルトがカザールの後ろに控えた。
「突然こんなところまで連れてきてしまったが、早急に伝えなければならない件だったので許してほしい。」
「私は構いません。何があったんですか?」
真剣な表情のカザールはゆっくり頷くと王妃陛下と第二王子殿下の話を話し始めた。
「私は王太子として認められているが、王妃派はそうは思っていない。だからこそ日頃から影を使い監視している。
王妃は貴族派と共に、ヨシュアを王位につけることを画策していてね。その為にこれまでララが婚約者として必要だったんだ。しかし、最近力をつけてきたキシュドナ伯爵の影響もあり、今回恐らくヨシュアはキシュドナ令嬢を妃に決めるだろう。元々あいつはキシュドナ令嬢に夢中だったから当然と言えば当然の結果だが、どうやらそれだけでは済まなくなってきた。」
「どういうことでしょう?」
雲行きの悪い話になってきて思わずララは身構えてしまう。
「【アミュラの魔眼】を諦めきれないらしい。」
「そんな・・・」
部屋の中は静まり返る。ララの頭の中も真っ白になり、続く言葉を聞くのに恐怖すら感じる。
「怖がらせてすまない。」
申し訳なさそうにカザールはララを見つめる。そして彼はアルベルトに頷くとアルベルトが代わりに話を進めた。
「我々は王妃殿下と、第二王子殿下の様子を婚約解消後も引き続き注視してまいりました。第二王子殿下は婚約解消に不満を感じていらっしゃいませんでしたが、問題はやはり王妃殿下でした。幾度となく第二王子殿下を呼びつけては、【アミュラの魔眼】の必要性を訴えておいででした。そして昨日、とうとう第二王子殿下は王妃殿下の意に沿われ、サクシード伯爵令嬢を側妃として向かい入れる準備をすることにしたようなのです。これはまだ国王陛下には伝わっていない為、未確定事項ではございますが、恐らく近々通達が来てもおかしくない内容です。」
「・・・・・」
アルベルトの話を聞きたいのに次第に顔は俯き、膝に添えていた両手はガタガタと震えが止まらない。
何も答えることができず目を瞑り、心の動揺を抑えようとしていると、ふと両手が温かいものに包み込まれる感覚を覚える。
目を開けるとそこにはカザールの掌が添えられており、ララの両手を包み込んでいた。
先ほどまで対面で座っていたはずのカザールは、いつの間にか横に移動して座っていたのだった。
動揺して言葉を出すことができず、カザールを見つめ返すと、彼はそっと優しく壊れ物を扱うかのように優しくララを抱きしめた。
優しく温かいカザールの胸の中に包み込まれ、震えていた両手も、冷え切った心も、ふわっと温かく包み癒されるのを感じる。
ハッと我に返ると部屋の中にはカザールと自分しかいないことに気づく。
(アルベルトや控えていた侍従はどこに???)
思考が定まらずララは狼狽えていると、抱きしめたままでカザールが優しく話しかける。
「私はヨシュアからララを守りたい。・・いや。お前を渡したくない。」
熱のこもったカザールの声音に、ララの鼓動は早鐘を打ち、体中の熱が急激に上昇していくのを感じる。
(渡したくないって・・まさか・・・カザール様は私のことを??いやまって・・・でもそんな・・わからない・・カザール様は私のことをどう思っているの??)
「あの・・それは・・研究員としてでしょうか?」
恐る恐る尋ねると、カザールは抱きしめていた腕を緩めララを見つめてきた。
ララにはカザールの瞳が熱を持ち、自分に何かを願っているように感じる。
静かな室内で、二人の瞳は逸らされることなく見つめあい続ける。ララは瞬きの仕方すら忘れ、どうしたら良いのか戸惑いつつも視線を逸らすことができない。
堪え切れずララが目を瞑ると、カザールは掌でララの頬を優しくそっと触れた。
「私はララ。君に好意を抱いている。」
決して大きな声を彼が出しているわけではない。それでもしっかりと聞き取りやすい声音には熱がこもりかすかな震えも感じる。ララの耳には甘く溶けてしまいそうな愛の告白に聞こえ、思わず目を開くが動揺しているのか?目に涙が浮かびカザールの瞳が歪んで見える。
「本当・・に?」
「最初はヨシュアの力を削ぐのに婚約破棄の手伝いは好都合だと思った。だが、ララ。お前の紡ぎだす言葉はどの令嬢とも違った。俺をしっかり見てくれた。どんなことにも前向きで、輝いて見えるんだ。皆お前に惹かれている。そんなララが誰かに取られないか気が気じゃないんだ。
それなのに愚弟は側妃だなどと・・・・私は絶対にララを手離したくない。共に過ごすようになって、間もない私の言葉は信じられないかもしれないが、これが俺のキモチだ。」
「カザール様・・・私は曖昧ですが、貴方の言葉一つ一つに感情が揺さぶられます。ドキドキしたり・・胸が苦しくなったり・・気づくとカザール様を目で追ってしまうのです。距離が近づくと思わず触れたくなってしまうのです。--これは貴方の気持ちに相応しいものでしょうか?」
カザールの熱い想いに応えようと、戸惑いながらも紡ぐ言葉は、より一層自分の想いを高めるかのように体中の熱が顔に集まっていくのを感じる。
耐え切れなくなり、カザールの胸に顔を埋めようと動いた瞬間、彼の両の掌はララの顔を包み気づけば鼻の頭に柔らかい感触を感じた。
「え?!」
驚いた時にはすでにカザールの唇が自分の鼻に口づけている。戸惑う隙も与えないかのように、彼は額、瞼、頬と唇を落としていく。
チュッと優しく響く音が鼓動を速くするのに、唇で触れられると言いようのない安心感に包まれるのだ。うっとりしながら彼を見つめていると自分の唇に柔らかい感触を感じた。
瞳を閉じていたカザールは、蕩けるような微笑みを向けるともう一度瞳を閉じて向きを変えて唇を重ねる。
このまま二人が解けて混ざり合ってしまうのではないかと感じるくらいどうなっても良いと感じた。優しい口づけはララを傷つけない。安心感を与え、愛おしいという思いが切ないほどにこみ上げる。
何度繰り返したかわからない触れるだけの口づけをとめ、惜しむように躊躇いながらカザールは唇から離れた。
少し呼吸を乱しながらも見つめ合い、お互いを求めているのを二人は強く感じあった。
(これは恋なの?・・甘くて優しくて・・離れたくない。切なくて胸がうずいてたまらない。)
「カザール様・・」
思わず彼の名を呼ぶと、彼は嬉しそうに蕩けるような微笑みを浮かべ、体を離した。
名残惜しくて抱き着きたい衝動をララは必死に堪えていると、彼はララの前に指輪を差し出した。
「ララ。俺と結婚してほしい。俺をお前の伴侶となることを許してもらえないだろうか。」
甘い言葉を囁き、カザールはララの左手を救い上げた掌の甲に口づける。
「はい。喜んでお受けいたします。」
ララの返事にカザールは満面の笑みを浮かべ左手の薬指に指輪をはめた。
指輪はゴールドのリングで、中央には紫の美しい宝石がはめ込まれている。
「いつの間に用意してくださったんですか?」
「俺の友人が魔道具を作ることができるんだが、神に愛されるほどの優れた魔法師なんだ。初めて魔導研究所へララを案内した日にすぐに頼んで作ってもらった。特別な指輪だ。」
「嬉しい・・」
ふふふと、微笑みながら嬉しそうに告げるララをもう一度抱きしめると、カザールは話を続けた。
「この指輪をララが受け取ってくれたら、俺は覚悟を決めるつもりだったんだ。だからもう迷わない。」
「何をですか?」
先ほどまでの甘い会話から真剣な声音に変わったカザールに、ララは問わずにいられなかった。
「愚弟の罪をどこまで暴くか悩んでいたんだ。だがララが指輪を受け取ってくれたからな。全て暴いてしまおうと思っている。」
「全て?・・・よろしいのですか?」
「まぁ・・国の恥さらしだからな。25歳にもなって愚かならもう治らんだろう。」
「・・・・・私はカザール様の判断に寄り添いますわ。」
「ありがとう。・・・これから忙しくなるだろう。」
「付いて参ります。」
二人は見つめ合い再び抱きしめ合った。
***
「送っていけずすまない。」
「気にしないでください!こんな素敵な王宮の馬車で送っていただくのですから充分ですわ。」
陽もくれ始め二人は別れを惜しむと馬車はララを乗せて走り始めた。
この一か月の間にどれだけ沢山のことが目まぐるしく起こっただろう。
婚約者の不貞の現場を偶然にも王太子であるカザールと目撃し、数日で婚約解消を行い、翌日には不貞相手から罵倒され、それをカザールに助けられ、魔導研究所を見学して働くことを決めて、自分の価値観から、丸ごと生きていて楽しい、嬉しいと、実感できる日々を過ごせるようになった。研究所の仲間たちはみんな私に良くしてくれて、カザールは優しくて、気づいたら彼のことで胸がいっぱいになっていた。まさか元婚約者が、私を側妃にしようと企んでいるだなんて思いもしなかったけれど、そのおかげ?でカザールから求婚してもらえた。素敵な指輪までいただいてしまってまるで夢のよう。
(まだ何も解決はしていないけれど、幸せ過ぎて怖いくらいだわ・・。)
夢心地で窓の外を眺めていると、薄っすらと暗闇の中で馬が並走して走っているように見えた。
目をよく凝らし見つめると、外には馬に乗った人影がいくつも見える。
(まさか夜盗?!)
嫌な予感を感じた瞬間、がたーーーーーんっと激しく馬車が揺れ動き荒々しく馬車は停止する。
これは非常に危険な状況なのだろう・・外には大勢の馬に乗った者たちに囲まれていることだろう。きっとさっきの衝撃で御者はやられてしまったに違いない・・
しばらく静かだった外は、近くに他の馬車が停車したようで数人の声が聞こえてくる。
ほとんどは男性の野太い声で荒々しい話し方だが、女性もいるようで嬉しそうに話をしている?
じっと身を潜めていると、とうとうガチャガチャと馬車のドアをこじ開けようとする音が聞こえ、車体もぐらぐらと揺れ動く。
---ガタンっ
等々鍵で閉められていたドアはこじ開けられ、何人かの男性がこちらを覗いてきた。
「あんたにゃ悪いが降りてもらおうか!」
にやにやと卑猥な笑みを浮かべながら、荒っぽくララの腕を掴むと、男たちは無情にも乱暴に馬車から引きずり下した。
「きゃぁあっ!・・痛いっ!」
荒っぽく引きずり降ろされたため地面に転び、体を打ったらしく痛みが走る。
「ふふふ・・無様ですわね」
聞き覚えのある高い女性の声が、ララの頭上に降ってきた。
「キシュドナ嬢?!これは一体どうゆうことですか!」
「黙りなさい!貴女は今囚われの身なのよ。偉そうに私に話しかけないで頂戴!」
苛立ちを隠そうともせずに、エリンは話を続けていく。
「見てみなさいよ。薄汚れたドレス!貧相な体!パッとしない顔!どれも私にはかないもしないというのに・・・その赤い目のせいよ!!側妃ですって?!子供を産んで世継ぎにする?!ふざけんじゃないわよ!---私が正妃なの!側妃なんて必要ないし、魔眼だって必要ない!皆に必要とされるのは私で、世継ぎは私とヨシュア様のとの子供しかありえないの!!」
撒くし立てるように荒々しく吐き捨てる言葉は、恐らく今日私がカザールから聞かされたように、エリンもヨシュアから告げられたのだろう。
まさか従順なエリンが、こんな暴挙に出るなどと露ほども疑わず、好き放題に話したに違いない。
本当に愚かな王子だとララは心の中で呆れてしまう。
「---だからね。貴女には、もうここでいなくなっていただきたいの!カザール様のそばにいるのだって許さない!王族に愛されるのは私だけ!
ーだからね?この汚い夜盗に貴女を慰めてもらおうと思うのよ。キズモノは王族の伴侶にはなれないのだから。ふふふ・・素敵な夜をお過ごしになって?」
激情のままに叫んでいたエリンは、最後は上機嫌となり甲高い笑いを堪えもせず、言いつくしたと満足そうに微笑むと「好きにしてちょうだい!」と吐き捨てる。乱暴に告げられた男たちはララに迫る。
「--近寄らないで!!・・っやめて!!」
男たちはララの体を押さえつけ、乱暴にドレスを脱がせようとする。
「いやっ!!助けて!!カザール様!!」
一心不乱に叫び、拳をぎゅっと握りしめ魔力を込めてカザールを想い叫んだ。
突如激しい光が、ララの指輪から放たれ辺り一面が一瞬眩しくて見えなくなる。
「ララ!!!」
聞き覚えのある愛おしい男の声が聞こえたかと思うと、剣のぶつかり合う衝撃音が鳴り響き、男たちのうめき声や叫び声が飛びかう。光が収まる頃には辺り一面は血の海と化し、自分を取り囲んでいた男たちは全員倒れ、少し離れた場所ではカザールがエリンの首に剣の切っ先をあてていた。
何が起こったのか全く分からなかったが、どうやら指輪のお陰でカザールが助けに来てくれたらしい。
カザールからもらった指輪は、危険を察知した時に魔力を込めると、同じリングを持つ者を呼び出すことができるというものらしい。
更に光はこちらでは激しく光ったが、カザールからは眩しくなかったのだろう。
者の数分で10人以上いた夜盗を打ち倒してしまった。
「貴様・・この状況が何を意味するか分かっているのだろうな?」
恐ろしいほどの冷徹な声音でエリンは自分のしたことを痛感する。
「も・・・申し訳・・ございま・せん・・ゆ・・ゆるし・・て・・」
ガタガタと震えあがり、先ほどまでの甲高い笑いは嘘のように消え、涙をぼろぼろ溢して情けない顔で許しを乞うている。
「もはや遅い。私の婚約者に手をだした者の罪は決まっている。ここでは殺しはせぬ。しかし逃げられるとは思わぬことだな。」
吐き捨てるかのように言い捨てると、彼は魔道具を取り出した。
細いひもの様だったソレは、引き延ばすと長い縄に変化した。カザールは、無言で縄をぐるぐるとエリンに巻き付け拘束していった。
カザールはエリンを放置すると、ララの元にやってきて自身のジュストコールを脱ぐとララに羽織らせ、ぎゅっと抱きしめた。
「ララ・・無事・・か?」
「はい・・危ないところでしたが、問題ありません」
強気に微笑んで見せたララは、カザールの胸に抱きしめられた。意図せずルルの瞳からは涙がとめどなく溢れ出す。
「まさかこんなに早く動くとは想定外だった・・私の判断ミスだ・・本当にすまなかった。今私の位置を把握して、アルベルトが向かっているはずだ。ここからならそう時間はかからないだろう。」
「いいえ・・・いいのです・・・貴方が来てくれたから・・うぅっ」
「ララ・・お前をもう一人にしない・・約束だ」
力強く優しいカザールの言葉は、ララの涙が止まるまでずっと紡がれ続けた。
***
半時もせず、アルベルトは他の騎士を引き連れてカザールの元へやってきた。
それからはあっとゆう間に処理は進み、カザールの指示のもとアルベルトは騎士を各方面へと散らした。
エリンは投獄され、同日中にキシュドナ伯爵、キシュドナ家紋の血族も投獄された。
なんとカザールはララと別れた後、すぐに国王陛下に謁見し、婚約を受理してもらっていたらしい。その直後に突然カザールの体が光って消えたので、王宮もパニックだったのだそうだ。
王妃と第二王子は、キシュドナ伯爵から多額の賄賂を受け取り、なんと国では認めていなかった「魔力抑制薬」の密輸にも、8年以上前から加担していたことが判明した。
隣のメルリド王家からの打診で、不法な密輸の証拠を探す為、キシュドナ伯爵の館を捜査したいとカザールに頼み込んでいたようなのだが、さすがに大事な為悩んでいたらしい。しかし、婚約指輪をメルリドの第一王子殿下が作って下さるということで許可をだしたのだそうだ・・・
証拠はすでに見つかっていて、キシュドナの家紋取り潰しは確定とされている。しかし、王妃殿下、第二王子殿下に関しては国王陛下の采配に委ねることになるのだそうだ。恐らく二人の処刑は、免れるのではないかと囁かれている。
本当は「【魔力抑制薬】の精製事態取り止めてほしい。」と、メルリド王家からは訴えかけられたようだが、魔力を持たないアストラ王国にとっては容易に手放せるわけもなく、カザールが今後取り締まり運用を検討することにしていくこととなった。
メルリドの第一王子殿下とカザールは、仲も良いようなのできっと悪いようにはならないだろう。
メルリド第一王子殿下は、ララたちより数か月早く婚約をされていたらしく、なんとそのお相手はララの又従妹だというのだから驚くしかない。幼い頃に数回会った記憶があるが、自分と同じ真っ赤な瞳の可愛らしい幼い少女だったことを懐かしく思い出す。
もしかしたらお互いの結婚式でまた再会できるのかもしれない。そう思うとララは幸せな気持ちになった。
***
「ララさーん!この魔道具上手く動かないんだけど見てもらえませんか?」
フレッドはまたいつものようにララに魔道具を持ってきてチェックをお願いしている。
「んー・・これはちょっと魔力がうまく通らないみたい。ここの回路のつなぎ目を確認してみたらどうかしら?」
魔力を込めてみるが、うまく通らない部分を確認し、指さしながらフレッドに状態を伝える。
「流石ララさん!ありがとうっ!!」
フレッドは性懲りもなくララに向かって飛びつこうとする。
「お前はしつこいぞっ!!フレッド!!」
呆れつつ、すかさずカザールはララを抱きしめてフレッドを遠ざける。怒りがこもった声音でもフレッドは全く動じない。むしろ唇を尖らせ反抗心はむき出しにしている。
「ちょっとくらいいいじゃないですか!!カザール様はララさんを独占しすぎです!!」
「当たり前だ!俺の婚約者だ!むしろ近づくな!!」
いつものやり取りにクスクス微笑むが、以前より更に距離が近づいたカザールは全く遠慮がない。
研究員たちの前であっても抱擁してくるし、唇にも平気でキスを落としてくる。
甘い言葉を囁くのは日常茶飯事となっている。
「ルル。午後からの仕事はどうなっている?」
「えーっと・・・」
ルルは周りを見渡すが誰も目を合わせない。ここで仕事をルルに頼もうものなら、カザールにあとから数倍に仕事を増やされることだろう。
「特に・・ないかな?」
「それなら今からちょっと出かけるぞ。」
ぎゅっと抱きしめあいながら、カザールのルルを見つめるその姿を、もう周りの仲間たちは我関せずとばかりにスルーして自分の仕事に打ち込んでいるのだった。
魔導の魅力にハマった伯爵令嬢は、今日も王太子殿下から溺愛されています。
fin