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誤解だ先輩!

「その子、君の友達?」


 アリエルを見て、先輩が怪訝な表情になる。

 そうか、そういえばナビをつけると言っていたっけ。

 あの天女は本格的に俺を退魔師に祭り上げるつもりらしい。


 こっちは承諾もしていないというのに。


「ま、まあ。そんな感じです。行くぞ、アリエル」


「アーイースー」


「ほれ、残り全部やるから。じゃあ、先輩、また」


 日常の象徴たる巨乳の先輩ともっとお喋りしていたかったというのが心情だ。

 それほど、ここ数時間でおきた出来事は超常的だった。

 いや、実際には数分も経っていなかったのかもしれないが。


「で、アリエルだっけ。君、どこに住んでるの?」


 アリエルは目を細めて微笑んだ。金色の目を見ていると、猫耳がぴこぴこ動くのを幻視した。


「これから住むの」


「どこに」


 話にならない。


「君んちに」


 本格的に話にならない。


「あの天女に生活費とかそういうのもらってないのか?」


「もらってないにゃー。けど現界している身。眠くはなるし腹は減るにゃー」


 スマートな腹を擦りながら言う。

 なんだか二郎にでも連れて行ってやりたくなるような細さだ。

 そこではっとした。

 庇護欲に突き動かされてはいけない。俺には先輩がいる。


「駄目だ!」


「どうしてにゃ?」


「だって、俺んち狭いし、風呂とかの時に着替える場所もないし」


「そういや私、暑くて汗臭い」


 いきなりアリエルがげんなりしたように言う。


「ちょっとシャワー貸して」


 そう言うと、アリエルはずんずん俺の家に向かって歩いていったのだった。

 なんでそうなる。

 俺は頭を抑えながら後に続く。


 考え直せと口を酸っぱくして言う。

 男は危険だと娘を持った中年親父のように語る。


「コンビニの小さなヒーローはそんな危険な男だったのにゃ? そりゃー先輩ちゃんとやらもがっかりだにゃあ」


 けらけらと笑われてつい黙り込んでしまった。

 ぐうの根も出ないとはこのことだ。


 そして今、俺の部屋では、アリエルがシャワーを浴びている。

 見える位置に下着や黒い服が脱ぎだされているのが生々しくて嫌だ。


(俺の部屋で女がシャワーを浴びている俺の部屋で女がシャワーを浴びている俺の部屋で女がシャワーを浴びている俺の部屋で女が……)


 いやこういうのは意識するのが駄目だ。

 修行僧のように穏やかな心でいなければ。

 シャワーの音が止まった。


 体を洗う音が響き始める。

 俺は自分の頭をテーブルに打ち付けた。

 煩悩多き年頃の俺にこの音は拷問過ぎる。


 その時のことだった。

 部屋の扉が空いた。


「おっす、岳志君。かてーきょーしのおねーさんがデリバリーだ!」


 慌ててどっかのバカの黒服と下着を足で蹴っ飛ばして玄関に出る。


「それが先輩、今は都合が悪くて」


「都合が悪いー? こっちは準備万端なのにー」


 そう言って、膨れ上がったコンビニの袋を持ち上げて見せる。

 アルコール缶とジュースで一杯だった。


「岳志ー、リンスとシャンプーどっちがどっちだにゃ?」


 どっかのバカがシャワー室から顔だけだした。

 コンビニの袋が地面に落ちて中身が散乱する。

 さながら、一瞬で豊かな草原が砂漠になったような乾いた空気が漂った。



続く

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