嫉妬の具現化 二体目
嫉妬の具現化、と言ったか。
接近しつつあるキングオークを見据えながら冷静に分析する。
それは、彼が俺に嫉妬しているということだろうか。
何故?
彼ほど才能に満ち溢れた二刀流選手など県下にいなかったというのに。
キングオークの斧が振り下ろされる。
短剣で受け止めるかどうか迷った挙げ句、スライディングで相手の背後を取る。
しかし、攻撃には移れない。
相手の図体がでかすぎる。
キング、と言うだけはある。
その図体は普通のオークの五割増だ。首筋まで短剣が届かない。
ならば、こうだ。
「サンダーアロー!」
雷属性の矢。
それは相手を焦がし、一瞬で黒墨に変えた。
使い勝手はともかく、単純な威力だけなら俺のスペル内で最強だろう。
レベルアップ、という単語が脳裏に浮かび上がる。
久々のレベルアップだ。
しかし、新スキル等の追加要素はないようだ。
若干残念。
そして、俺はクーポンの世界を閉じた。
先輩が俺を追って駆けてくる。
「どうしたの? 急に、駆けていって」
ヴィジュアル系の男はいつの間にかいなくなっていた。
クーポンの世界での時間経過はこの世界の時間経過を無視しているはずなのだが、どういうからくりか。
しかし、倒すべき敵はわかった。
「なんでもないですよ、先輩。動物が逃げたかと思ったら、木陰でした」
先輩は安堵したように苦笑する。
「そっか、君も随分うっかりさんだなあ」
今日は先輩のエスコードが優先だ。
あの男のことは、それからだ。
そう思い、俺は微笑んで、先輩の手を取った。
先輩は微笑んで俺の手を握る。
いつの間にか、手を握ることに抵抗がなくなっている。
俺達は、一歩先のステージへと進んでいた。
続く




