風とともに
風が吹き始める。
旧・風の精霊がエネルギーを貯めている。
そこに向かって、風が集まっているのだ。
意識が朦朧としてきた。
思い出すのは、中学生時代。
俺の放課後は、いつも風とともにあった。故郷も、そうだった。
クリエイトウォーターで雛子を正気に戻した時のことを思い出す。
「やって……みるか」
やらずに死ぬよりはましだ。
ゆっくりと片手を上げて、唱える。
「クリエイトウィンド。コールドレイン」
氷の矢が降り注ぐ。それは緩やかな風によって曲がり、風の精霊を削りにかかった。
中学校時代の真夏のランニング。
風は癒やしだった。
秋の畑。
稲穂を風が揺らした。
春の海。波の音が常にランニングロードにあった。
雪のふる日。
吹雪く中雪かきをした。
旧・風の精霊が、全身を突き刺されながらも呆然とした表情になる。
狂気の光がその瞳から消え、そのまま泣き笑いのような表情になる。
「そうか。わらわはお主等と共にあったのだな」
そう言うと、彼女は目を閉じ、そのまま死を受け入れた。
「譲ろう。わらわの秘宝」
そう言うと、彼女の体はかけら一つ残さずなくなり、消えてなくなった。
「勝った……のか?」
俺は呆然とした口調で言う。
それほどの強敵だった。
アリエルが駆けてくる。
「完勝にゃ。誇っていいにゃよ。ただ、早くヒールを」
寒いと思っていた。この瞬間にも傷口からは熱い血潮が流れているのだ。
俺はヒールを唱え、傷口を塞いだ。
「なんで彼女は、囚われの身に?」
俺は問う。
「少し前に、天界大戦があったにゃ」
アリエルは目をそらすと、苦々しげに言う。
「彼女はその、賊軍にゃ。それ以上に、言えることはない」
「そうか」
深入りする気もなかったので、宝箱の前に移動する。
昔、風は常に共にあった。
蒸し暑い日の癒やしに。
秋や春の町を彩る景色に。
冬の苦難の一つに。
今は、感謝の気持しかない。
箱を開ける。
鎧と短剣が二本が入っていた。
「魔法ではないのか」
少し落胆する。
「いや、これはめっけもんにゃよ」
アリエルは感心したように言うと、鎧を着るように俺に促した。
そして、不意打ちに魔法を唱えた。
「フレイムアロー!」
アリエルの強力な魔法。鉄をも溶かす炎の矢。その連弾が鎧に突き当たる。しかし、溶けるどころか熱も伝導しない。
「その鎧。魔を全く受け付けないにゃ。多分、その短剣も」
「成果有りって感じか」
思ったほど大きな成果ではなかったが、穴が空いた鎧の代わりは見つかった。
覆うのが上半身だけというのが少々心許ないが、いざという時の切り札になるかもしれない。
今回の冒険はこのあたりにしておこう。
そう言うと、アリエルは微笑んだ。
「お疲れ様、岳志。格好良かったにゃ」
「お前もな」
珍しく本音を出し合う。それは冒険を共にして以前よりまた一つ心が近づいたからなのかもしれない。
俺はクーポンの世界を閉じた。
最後の刹那。
消えていく旧・風の精霊の切ない表情が脳裏に蘇って、消えた。
続く




