ギシカの安寧
ギシカは後ろから六華に抱きしめられていた。
「思えば、貴女にこうしてあげることもなかったわね。ただただ、自分を律するように求めてきたわ」
六華がギシカの頭を撫でながら言う。
「悪いことじゃないよ。それに私、全然自分を律せてない」
愛の好きな春武を好きになってしまった。駄々もこねた。悪い子だ。
「貴女ぐらいの歳の子はそれで良いのよ。無理に大人ぶらなくて良い。ありのままの貴女で良いの」
「……それで、嫌われない?」
「私は受け入れるわ」
六華ははっきりと言った。
なんだろう。
今までギシカの中で不安定だった何かが落ち着くところに落ち着いたような安寧感があった。
「……振られちゃった」
ギシカは苦笑交じりに言う。
こんな私事を親に話すのも初めてだ。
「春武に?」
「バレちゃうか」
「貴女の傍にいる格好良い男の子なんて限られてるもん。私もね、昔春武のお父さんに憧れてたんだ。妹としてこのままじゃ駄目だと思ってお父さんと結ばれたんだけどね」
その父も、魔界の王だ。会ったこともない。
「どんな人?」
「悪魔だからねえ。野蛮な部分もあるわ。けど周囲のことを考えて行動できる立派な人よ」
ギシカは微笑む。
「ねえ、もっとお父さんの話、して」
六華も微笑む。
「良いわよ。こういう話もあらためてしたことなかったわね」
自分達はまだまだこれからなのだ。
ギシカは安寧の中でそう思った。
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千紗は煙草を吸っていた。
(不味いな)
嫌な気配がする。
悪霊憑きの匂いだ。
しかも、魔力と霊力の混合術を使っている。
基本的に探知範囲の狭い千紗ですら遠くから感じるほどに濃い。
岳志は試合前。
神秘のネックレスの力は使用できない。
千紗の得意分野はあくまでも探知。
戦闘能力はない。
(春武なら間に合うか……?)
縮地を使えるとは言えどここは名古屋だ。東京からは遠い。
それでも、賭けるしかないだろう。
陰陽連の一般兵よりはよほど頼りになる存在だ。
千紗はパネルフォンを取り出すと電話をかけ始めた。
つづく




