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変な奴

 なにか頭に心地良い感触がある。

 撫でられているのだ、と遅れて理解する。


 薄っすらと目を開ける。

 ん、ということは今まで目を閉じていたということだ。

 なんでだ?


 目を開くと、前を向いて俺の頭を撫でている愛の顎が見えた。

 俺はベンチに横たわって、愛はその隣に座っていた。


「ああ、気付いたの」


 愛は拗ねたように言うと、手を離した。

 心地良い感触だった。

 それだけは実感として覚えている。


「あのね、貴方投球練習中によそ見してて、キャッチャーの返球が頭部にぶつかって、当たりどころが悪かったのか疲労が溜まってたのか気絶しちゃったの」


「そんなことがあったのか」


「念の為にって私が呼ばれたわけ」


 愛は蓮っ葉に言う。

 こいつは相変わらず俺が好きなのか嫌いなのか良くわからない。

 調子が狂うな、と思いつつ起き上がる。


「なんで余所見なんてしてたんだっけ」


「刹那さん来てたからそっちに気を取られてたみたいよ。マザコンねー」


「刹那は母親じゃない」


 繊細な部分に触れられて、不機嫌になりつつ言う。


「実質母親でしょ」


 その言葉が、すとんと腑に落ちた。


「相手だってそう思ってるわよ」


「そうかな」


「そうよ。あんたが生き甲斐ってレベルなんじゃない? うちの母親やあずきさんみたいに」


 どんどん自信がついてきた。

 刹那に関しては、自分の育児のために手間を掛けさせたという後ろめたさのようなものもある。


 そして俺は、ある光景に思い当たった。

 構える刹那。爆発的に膨れ上がる魔力。

 あれは、なんだったのか。


「愛」


「なによ」


「俺達、もっと強くなれるかもしれない」


 愛は怪訝気な表情になる。

 刹那ができたならば、俺達にもできるはずだ。

 理屈はわからない。

 けど、訊くしかない。そう思って立ち上がってスマートフォンを傍にあった鞄から取り出す。


「あ、起きたのー?」


 刹那がちょっと遠くで鬼瓦と肩を並べながら声をかけてきた。

 チームは紅白戦の真っ最中のようだ。


「帰ったんじゃなかったのか?」


「あんたが倒れたから残ってたのよー。どうしたの? 起き抜けに」


「いやな……」


 あれだけ圧倒的な魔力を発揮しておいてそれはないだろう、と思う。

 しかし、チャンスは眼の前にある。そんな感覚があった。

 それは、先生にこの先対応していくために必要なことだった。



つづく

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