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ね、ね、岳志

「ね、ね、岳志」


 着替えてきたエイミーが顔を覗き込んでくる。

 そう言えば、昔からこういう物怖じしない奴だったなあなんて懐かしくなる。


「お腹すいたな」


「じゃあラーメンでも食うかあ」


 ラーメンはラーメンでもデートに選ぶと幻滅されそうなラーメンだが。


「ラーメン! いいね! ジャパニーズラーメンエイミーも大好きだよ!」


「それじゃあずきさんとアリエルも呼ぶか。あずきさんなら丁度いい量だろうしアリエルはちょっと肉をつけたほうが良い」


「肉がつくの?」


 エイミーは難色を示した。


「一食ちょっとカロリーが高いものを食べた程度じゃそう変わらないよ」


「見てよこの体。岳志のために維持してきたんだよ?」


 そう言ってエイミーはくるりと回転する。

 細い腰に健康的な太もも。

 平常心がやや揺らぐ。


 しかし、惑わされてはいけない。

 俺は無視して、あずきに電話をかけた。

 あずきは二つ返事で了解した。


 ホテルにエイミーの荷物を預けて待ち合わせ場所で十分ほど待つと、あずきとアリエルがやってきた。


「エイミー!」


「あずき? あずきなの?」


 きゃーと盛り上がって抱き合う二人。

 この女性同士の距離の詰め方というのが俺は理解できない。急速すぎると思うのだ。その割には陰口は言ったりする。全く持って理解できない。


「今日行くラーメンはちょっと衝撃的かもねえ」


「へえ、変わり種なんだ」


「注文聞かれたらこう答えとけ。ヤサイマシマシアブラマシマシ」


「ヤサイマシマシアブラマシマシ……呪文みたいだね」


「スタバよりはわかりやすいだろ」


「そりゃそーだ」


 そう言ってエイミーはころころと笑った。


「なんか不穏な気配がするにゃあ……」


 敏感なアリエルはなにかを察しとっているかのようだった。

 そして、俺達は戦士の集まる地、ラーメン屋二郎にやってきていた。


 店に注文し、食券を注文し、卓に並ぶ。


「ヤサイマシマシアブラマシマシ」


 四人の声が唱和する。


「あいよ」


 店員は威勢よく言うと、厨房に戻っていった。


「楽しみだなー、岳志がごちそうしてくれるジャパニーズラーメン」


 エイミーは幸せそうに言う。

 それがぶち壊れる瞬間を想像して俺は少し胸を痛めた。

 十分もしないうちにその品はやってきた。


 もやしの山。巨大なチャーシューの塊。麺が見えないほどのそれらに圧倒される。

 エイミーは目を丸くして、縋るように俺を見た。


「美味いぞ、食え」


 そう言って俺はもやしの山を崩しにかかる。

 エイミーは三分ほど硬直していたが、意を決したように食べ始めた。


 アリエルは立ち上がる。


「用事を思い出したにゃ」


 その首根っこをひっ捕まえて座らせる。


「食べ物を粗末にするな」


「……ちょっと岳志のこと、恨むにゃ」


 ちなみに、一般人にも食べやすいメニューというのも存在している。

 それでも常連向けへのメニューをオススメしたのは、俺のエイミーへの意地悪だ。


 あずきは早々に食べ終えて、水を飲んでいる。

 この人の胃は相変わらず異次元だなあ。


 なんとか食べ終え、店を出る。

 俺も久々だし、最近そんなに運動していないので、腹に溜まった。


「流石ジャパン、神秘の国……」


 しみじみとした口調で語るエイミーは、もう最初のテンションではなかった。

 これで俺への好感度が少しでも下がるといいのだが。



続く

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