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部長

 誤解が解けて、ギシカを連れて俺はその河川敷のグラウンドに出向いていた。

 チームは既に練習の真っ最中だ。

 辰巳も翔吾もいる。


「辰巳ー!」


 呼ぶとざわめきが生まれる。


「ホントだ」


「本当に来た」


「関西のあいつだよな」


 辰巳のチームとは去年の全国大会で対決済みだ。

 顔合わせは済んでいると言える。


「隣りにいるのは彼女かー?」


 冷やかしの声にギクリとする。


「ギシカ、暴走するなよ」


「その節は誠に申し訳ありませんでした……」


「俺じゃなかったら内臓破裂して失血死コースだったんだからな」


「誠に誠に申し訳ないと思っております……」


 親しき仲にも礼儀あり。

 遠慮がなさすぎたと悔いてはいるらしい。

 小さくなっている。


 これが千紗や愛ならば喧々囂々と反論してくるだろう。

 ギシカは従姉妹と言うこともあって気が楽だ。


「けど私、春武と合体するの?」


「アリエルさんとか魔力生命体なら影に入ったりできるらしいけどな。俺達、それできないだろ?」


「そこまで困窮する事態に陥るかなあ……」


 隠語ではないにしろ合体だ。抵抗があるらしく道中からブツブツこぼしている。


「準備はしておくに越したことはない。お前のパワーと俺のテクニックがあれば世界最強の戦士が生まれるんだぜ」


「岳志さんや刹那さんに勝てるかなあ」


「あいつらは人外だから」


 我ながら酷い言いようだが事実に等しい。


「おーい、キャッチボール混ざるかー?」


 辰巳が声をかけてくる。

 俺は手を振って合流した。


 グローブとスパイクは用意済みだ。

 俺達はボールを投げあって距離を縮めた。


「んで、合体のことだが」


「ああ、教えてやるよ。今日の練習で部長の目に適ったらな」


「なんだよ、入部試験とかあるのか?」


「あるぜー。部員思いの人だからなあ。無理だと思ったら預からないんだと」


 俺はその口ぶりにむっとした。


「俺の実力に難があるような口ぶりだな」


「実力じゃないんだよ、実力じゃ。な、翔吾」


「うん。故障して腐ってた辰巳をDH枠で引き取ってくれたのがその人だからね」


「ふーん。お前、出会いには恵まれてんのな」


「恵まれてたら故障なんてせんさ」


 苦い顔で言う辰巳である。


「ご尤も」


「来たぞ」


 辰巳がキャッチボールの手を止める。

 その姿に、俺は見覚えがあった。

 メジャーで親父と凌ぎを削ったライバル、元メジャーリーグ本塁打王の鬼瓦だ。


 故障した元投手で当時パ・リーグしかDHがなかった日本を見限って単身渡米した選手だった。

 なるほど、一癖も二癖もありそうな人物だった。



つづく

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