先生
「お前、名前は?」
俺は少女に問う。そう言えば名前を聞いていなかった。
少女はおずおずと口を開く。
「立花翔吾」
「男みたいな名前だな」
「私もそう思う」
翔吾はそう言うと、そっぽを向いた。
随分と嫌われたようだ。
「とりあえず、辰巳君? のところに案内してくれる?」
六華が言う。
「やだよ、辰巳まで危険な目に合わせたくない。記憶、消されちゃうんでしょ?」
「消さないわ。約束する。ただ、その先生って人について良く知りたいのよ」
翔吾は思案するように宙空に視線を向けると、しばしの沈黙の後頷いた。
「わかった。私は春武を辰巳の下に案内するために来たんだしね」
「俺を、辰巳の場所に?」
「一緒のチームに入ろうって言ってたでしょ」
それで話しかける頃合いを見計らっていてあの現場に出くわした、というわけか。
辰巳と会い、話すことになる。
なにから話せば良いだろう。そんなことを思う。
辰巳はライバルだと思っていた。それが魔力のブースト込みの能力だったとしたら、俺はそれをどう思えば良いのだろう。
「戦闘になる可能性もあるわ」
千紗が小声で囁いたので、俺は背筋が寒くなるのを感じた。
こうして、俺達一行は、翔吾に案内されて辰巳の下に向かうのだった。
つづく




