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非日常

「おっす」


「おや、いらっしゃい。来てくれたんだ」


 俺はアリスがアルバイトをしているというクレープ屋に来ていた。

 アリスが太鼓判を押すだけあって大盛況で、二十分も並ばされた。


「私の奢りだ。バニラクリームクレープをあげよう」


 ブルーベリーの口だったが黙っておくことにする。


「私、払うわよ?」


 案内について来ていた千紗が言う。

 方向音痴なのだ、俺は。


「いいのいいの、それぐらいの甲斐性はあるって」


 そう言ってアリスは注文を店内に告げる。

 そして財布を取り出すと、レジにお金を支払った。


「愛ちゃんも同じなので良いよね?」


「うん、十分よ」


 愛は少し気まずげに言う。奢られることに抵抗があるのだろう。

 こいつにはそういうところがある。

 プライドが高いというかなんというか。


 程なく製品が仕上がった。


「私は忙しくてついていてあげられないけど、美味しく食べてね」


 そう言うアリスの微笑みに背を押されて店を後にする。


「カラコン入れてんだなあ」


 そんなどうでも良いことに感心した俺である。


「赤い目はどうしても目立つからね」


 と千紗。


「アルビノとかは目が赤いって言うけどね」


 愛がクレープを頬張りながらどうでも良さげに言う。


「アルビノ?」


「色素が薄いのよ」


 どうでも良さげに言う。

 その説明だと良くわからないがそういう存在もいるのだと知った。


「近くの公園によって食べようか」


 千紗の提案に従い、近くの公園に言う。

 緑の生い茂るこの場所はコンクリートジャングルの中の癒やしだ。


「年々暑くなるねー」


 千紗が淡々とした口調で言う。


「京都は山に囲まれてるからもっと蒸し暑いぜ」


「じゃあ私、京都には行かないことにする」


「別に愛は来なくても良いけど」


「お、なに、やる?」


 どうでも良いことを駄弁っている間にクレープを咀嚼し終わった。

 一番初めに食べ始めた愛だけが未だに食べ切れていない。

 ベンチに座って食べ終えるのを待つ。


 異臭が鼻をくすぐった。

 なにかが鉄のような匂い。

 俺は立ち上がると、その匂いの方向に向かって歩いていった。


 そして、目撃した。


「どうしたの?」


 千紗が言って、着いてきて絶句する。


「なによ、なんかあったの?」


 愛が呑気にベンチでクレープを食べながら言う。


「警察呼んでくれ」


 千紗が我に返ったようにスマートフォンを取り出し、操作する。

 俺達の眼の前には遺体があった。

 内蔵を食われ、腹部が空っぽになった異様な遺体だ。


「なによ、なんかあったの?」


 愛は状況を知らないから呑気だ。


「お前は来るな」


 俺の声は知らず知らずのうちに切羽詰まっていた。



つづく

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