過去の出会いに縋るな!
「彼女だけだった、俺に優しくしてくれたのは! 俺を受け入れてくれたのは!」
少年は叫んで、拳の連打を繰り出す。
流星の如き速さの突き。
それを俺は尽く躱していく。
「運命だと思った! 失ってはいけないものだった!」
「けど、彼女は死んだ」
右の短剣で彼の腕を断つ。
そして懐に入って肘打ちした。
「それは無駄だったと思うか?」
俺の問に、彼は戸惑うような表情になる。
断たれた腕が宙に浮き、彼の切断面にくっつく。
模造創世石の侵食がかなり進んでいる。
持久戦になればやられる。
「彼女との出会いで君は変わった。それだけで出会いには意味がある。そしてこれから先にも出会いがある。君が否定しない限り」
「俺には……彼女しかいないんだよぉ!」
そう叫ぶと、少年は再び飛びかかってきた。
その顔面を殴りつける。
「過去の出会いに縋るな!」
彼は吹き飛んで倒れた。
「その出会いまで無駄にするつもりか! 出会ったことで強くなることすら否定するつもりか! 君は出会ったんだろう? 成長したんだろう? なら、もう過去に縋るな! 自分の身にしろ!」
彼は上半身を起こし、ぐっと詰まる。
「生温いな」
声が響いた。シュヴァイチェの声だ。
「俺がやってやろう。俺ならもっと上手く出来る」
「や、やめ」
少年が呻くように言った。
シュヴァイチェの気配が濃厚になる。
その時、六華は少年の傍にいた。
神殺しの長剣が模造創世石を貫く。
それは砕け散り、塵となって消えていった。
「きっと君の未来に、新しい出会いがある」
いつの間にか来ていたエイミーが、呟くようにそう言っていた。
「私は、そう信じている」
少年はしばし唖然としていたが、そのうち顔を覆って泣き始めた。
つづく




