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主張の強いヒロイン達

「岳志君は私の王子様だよ」


 雛子は憤慨したように語る。


「岳志君はね、教師といけない関係になりかけてた私を叱って、勉強も見てくれて、正しい道へと戻してくれたんだ」


 こほん、と幸子が咳をする。


「私が岳志君を野球の道へ引き戻しました」


 そう、誇らしげに幸子は言う。


「私がいなかったら今頃岳志君は野球辞めてたんじゃないですかね」


「恩着せがましーい」


「事実は事実です。だから私は、王子様、お姫様、だなんて浮足立った関係と違って、戦友という地に足ついた関係として特別な結びつきを岳志と感じる時があるんです」


「一方的に感じてるだけじゃん」


「な、なにおう!」


 VTRが切り替わる。

 朝のグラウンドから昼の中学校の校門前へ。


「やっと皆お兄ちゃんの魅力に気がついたかって感じです」


 そう熱心に語るのは六華だ。


「お兄ちゃんは本当凄いんですよ。優しいし気取らないし、それでいて野球は抜群に上手い。あの強豪校で一年ベンチでしたからね」


 そう言ってスマートフォンを取り出し、画面に向かってずずいと押し出す。


「見てください、これ、井上岳志ホームラン集。腕折りたたんで本当に器用に内角さばくんですよ。こっちは井上岳志レーザービーム集。見てたら本当に気持ちよく眠れるからおすすめです。後ですね、井上岳志ランニング集っていうニッチなのもありまして、私はこっちがストイックでオススメかなー」


 そう言いつつスマートフォンをシュババと高速操作していく。

 スタジオにVTRが戻る。


 地獄のような静寂が待っていた。

 全員、やや呆れたような表情になっている。


「モテるみたいですね、彼は」


 コメンテーターの一人が、絞り出すように言う。


「そうなんですよ。その他に、隣人にも飛び降りようとしていたところを助けられて生きる希望を貰ったとの証言もあって。年齢とは裏腹な慈善活動を繰り広げているらしいです」


「これは野球の試合の方も要注目ですねー」


「ですね。町内会の草野球チームですが是非勝ち抜いてほしい! では、姫の小さな騎士コーナーでした」


 番組が次コーナーに移る。

 それをあずきの部屋で見ていたアリエルは呆れたようにポツリと呟いた。


「放送事故にゃ。特に妹が」


 あずきは声を殺して笑った。



続く

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