泥臭い戦い
「は? 就職破談? 俺は酔い潰れた後輩を介抱してただけだけど?」
往生際悪く貴文は言う。
雫はひらひらと自分のスマートフォンを振ってみせた。
そして、スイッチを押す。
先程までの会話が、再生された。
貴文が遥に薬を盛ったというところまではっきり録音されている。
貴文は近づいていくと、雫の腕からスマートフォンをひったくり、足で粉砕した。
「もう手遅れよ」
憐れむように雫は言う。
「うちの自宅サーバーに送って保存しちゃったから。もし私が不審死してもそこからそれが発掘されるでしょうね」
「貴様ぁ……」
「帰りなさい木端。あの子は貴方が触れて良いような子じゃないわ……んぐ」
雫は唸る。
激昂した貴文に喉元を握られたからだ。
「じゃあなんだ。お前も諦めて、あのガキに遥を譲れっていうのか。譲れるか、こっちは二年想ったんだぞ」
「それこそ独りよがりよ……ぐっ」
雫の顔色がどんどん変色していく。
遥は焦る。このままでは、雫が殺される。
自分なんてどうなっても良い。
自分のために雫が死ぬなんて絶対に嫌だった。
そこに割り込んでくる影があった。
木材を両手に、六華が特攻してきた。
六華の木材が迷いなく貴文の脳天に振り下ろされる。
貴文は微動だにしなかったが、血が一筋流れ落ちた。
貴文の蹴りが六華に直撃する。
六華は血反吐を吐きながら吹き飛んだ。
尋常な身体能力ではない。
耐久力も、攻撃力も。
こんな時、王子様が来てくれたなら。
そう思わずにはいられない。
「お前ら……」
貴文が、ふと気がついたように歪んだ表情になる。
「見てみると、全員美人だな」
雫の表情がさっと青ざめる。
「データを取られたって言うなら、こっちもそっちが困るデータを取ってやろうじゃないか」
最低の発想だ。
もう終わりか。
そう思った時のことだった。
「雫さんから手を離せよ、この三下」
その声の響きに、思わず泣きそうになった。
王子様は、やってきた。
「六華に怪我させやがって。先輩に薬盛りやがって。雫さんに暴力振るってやがる。てめえ、許さねえからな」
「ウリエル、信号ありがとうにゃ」
岳志とアリエルが、その場に到着していた。
岳志はスマートフォンを取り出すと数度タップし、決闘のフィールドを呼び出した。
世界は白に塗りつぶされた。
続く




