レギュレーション
少女はゆっくりと動く世界を見ていた。
大人達が朗らかに話し合っている。
それを見て、少女はにこりと微笑んだ。
そして思うのだ。この時間がずっと続けば良いのにと。
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「レギュレーションを確認しとくにゃよ、岳志」
「なんだ? レギュレーションって」
「周囲の時間の流れは三分の一の遅さ。そんな中で考えなしに縮地なんて使ったらソニックブームで周囲を巻き込んじゃうにゃ。私達は通常の時間の中にあるけど周囲はそうじゃないって縛りは忘れちゃ駄目にゃ」
「なっ……お前の口から考えなしなんて言葉が出てくるとは!」
真っ先にそこに驚いた。
「にゃ! お前のほうが考えなしにゃ!」
「やめとこう。一刻を争う事態だ」
「そうにゃね。だから基本早足で移動。周囲に人がいたら魔力を開放して時間の流れを戻してやってから喋らないとこちらが早口になりすぎるにゃ」
「高速移動禁止は痛いな……」
「聞き取り時にも常に魔力全開って縛りも結構骨にゃ。私、岳志ほど魔力タンク大きくないにゃよ」
背筋が寒くなった。
こいつは以前、魔力の使いすぎで消えそうになっているのだ。
アリエルはそれを見透かしたように悪企みでもしているような表情になった。
「安心するにゃ。あの時ほど事態は切迫してない。私の魔力が限界になる前にあんたに託すにゃ」
「軽く言ってくれるなあ」
正直、責任を分担出来る今の立場は気楽ではあったのだが。
しかし、勝負師岳志、こんな崖っぷちの状況は何度も経験している。
今回もなんとかできるという経験による自己肯定感が俺にはある。
「なら勝負と行くか。出たとこ勝負だけどな」
「にゃっ」
俺とアリエルは拳と拳をぶつけた。
「俺は都内の老人ホームを回る、お前は病院に」
「あと警察のツテも借りるにゃ。六華に協力してもらって」
「なんかいつになく今日のお前は考えてるな」
「アンタの中の私のイメージってどうなってんの?」
「……」
一言で言うならばアリエル属の開祖。
しかしその言葉を飲み込んで、俺は言った。
「半分任せる」
「まかされたっ」
にぱっと笑うとアリエルはこちらに背を向けて早歩きを始めた。
俺も苦笑すると、反対方向に向かって早足で進み始めた。
つづく




