遥の危機
遥は貴文に手を引かれて、意識朦朧とした中で歩いていた。
さっきまでここまで意識混濁はしていなかった。
この症状は時間を追う毎に酷くなりつつある。
「あらしに、らにを、ろませ、た……」
ろれつが回らない。
「表向きはジュースみたいに飲めるアルコール度数がクソ強い酒に大量の睡眠薬さ。もう少ししたら眠くなってくるんじゃないかな」
貴文は平然とした調子で言う。
「ふざ、ける、な……!」
手を振りほどく。
そして、バランスを崩して、裏路地のゴミ箱を倒した。
貴文はそれをねっとりとした視線で見下ろした。
「ふざけるな、は俺のセリフなんだよね」
遥としては戸惑うしかない。
「ぽっと出のガキに惚れられてさ。しかも高校中退だそうじゃないか。お前のために一流企業に合格した俺の努力はどうなる?」
「そんんらの……」
遥は切って捨てる。
「お前の勝手ら。独りよがりら」
「……そうかい」
貴文の目に剣呑な光が宿った。
コンビニ強盗から助けてくれたあの日。
岳志は王子様だった。
王子様はこの飲み会参加に不満げだった。
言うことを聞いておけばよかったと思うがもう遅い。
こんな結果になってしまった。
合わせる顔がない。
体を起こされて、裏路地の奥へと運ばれていく。
そして、段ボール置き場の上で、突き飛ばされた。
服に手をかけられる。
やめろ。
その一言すら発することが出来ない。
その時のことだった。
「おや、こんなことが知れたら一流企業への就職もご破産じゃないかしら」
とぼけた調子で言う者がいる。
雫だった。
続く




