アリエルの抵抗
あずきの家は郊外にある一軒家だ。
マンションだとどうしても騒音の問題があるので纏まった金が貯まったのもあって買ったらしい。
らしい、というのは別々に住むようになって以降どうしても距離が出来てしまったからだ。
引越の手伝いも出来たが、一人で出来るからと遠慮されてしまった。
人には人一倍世話を焼く癖に自分が世話を焼かれるのは苦手。
皆の母親役をやっていた自負だろうか。
そのあずきの家に、俺は初めて訪れることになった。
表札には確かにあずきの本名がある。
チャイムを鳴らす。
数秒後に足音が聞こえてきて、ドアが開いた。
俺の顔を見て、あずきの表情が日の出のように輝いた。
「岳志くん。忙しいのに。来てくれたんだ」
「今はオフシーズンだよ」
懐かしさのあまり苦笑しつつ応じる。
「上がってよ。今アリエルと今後の相談しているとこ。バレちゃったからね」
俺はギクリとする。
バレた、ということは本当なのか?
「ねえ、あずきさん。あの記事って……」
「本物よ」
あずきの表情は前を向いて見えない。
俺はくらりときた。
新たな半神の誕生は眼の前か?
あかねや刹那と言った強力な力を持つ半神の家系。
それは日本だけでなく世界を揺るがす力だ。
そんな大きな存在は火種になりかねない。
陰陽連はどう動く? 天界は?
想像するだけで大騒動になりそうだ。
あずきが部屋を開けると、そこには黒猫がいた。
アリエルが猫化しているのだ。
「アリエルちゃん。お話の続きしよ」
黒猫は身構えると、苛立たしげに尻尾を振る。
「君の彼氏のことでしょ?」
黒猫はぷいとそっぽを向くと、俺達の足元を通って部屋を出ていってしまった。
「待てよ、アリエル。俺だよ、岳志だよ。返事ぐらいあっても良いだろう?」
アリエルはぴたりと止まった。
「まだ、岳志には影響が及んでないにゃ?」
黒猫が言う。
「影響……? 熱愛とかなんとかわけわかんないことになってるのは知ってるよ」
「そうか……」
アリエルは安堵したように言うと、光りに包まれた。
次の瞬間、そこに立っていたのは、黒装束に細い三つ編みをした眼鏡の女の子だった。
「良かったにゃ」
そう言って、あずきの額に手を当てる。
あずきは次の瞬間意識を失う。
それをアリエルは抱きとめた。
「正直、面倒くさくなってたとこにゃ。誰も彼も話が通じやしない。けど、岳志なら話が通じるならルートは絞られるにゃね」
「ルート……? 話が通じない……?」
「わからない?」
アリエルは溜息まじりに言う。
「ある日いきなり、書き換えられたのよ。周辺が。私に彼氏がいるって風に」
絶句する。
慌てて神秘のネックレスを装着する。
あずきから、模造創世石の影響を感じた。
俺は目を見開いていた。
「あるいは、そのネックレスがお守りになってくれたのかもしれないにゃね」
何処か投げやりに言ったアリエルだった。
つづく




