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やばいかも

 龍鳳の法話は退屈だ。

 話の大体は自己が信仰する神についてだしそれを胡散臭いと思ってしまうと聞けたものではない。


「そして我々神に選ばれし民が天上へと運ばれるでしょう」


「おお~」


 異口同音にどよめきが起きる。


(マジかよこいつら)


 というのが雛子の本音なのだが、一緒になってどよめいてみせる。

 お調子者でお喋り。雛子の本質だ。

 そして、いつものお約束。


 助手がやってきてお香を炊き始める。

 このお香を嗅ぐと妙な気分になる。

 気分が高揚すると言うか、魂が体から抜けていくような心持ちになるというか。


「お香の量産をしてくれる農家も我らが同士に加わってくれました。これからはより良い匂いを皆様に与えられるでしょう」


(これ……本当にただのお香?)


 くらくらする頭を抱えて公民館を出る。

 農家を傘下に引き入れたと言っていた。その前は、警察にツテがあるという話もしていた気がする。


 なにかがマズイ方向に向かっている。

 ここへ来るたびにそう思う。


 思うのだが、雛子に何ができるだろう。

 雛子は一介の派遣社員。親友のように政治・経済に強いわけでも武力に秀でているわけでもない。


 なにかマズイことになってきていることだけを感じながら、雛子は帰路についた。


(なんか赤い音がするな……夜の音ってもっと青いんだけど)


 そこまで考えて、吐いた。

 音の色って、なんだ?


 本格的にやばいかも。

 町と自分に起きつつある異変からの雛子の実感だった。



つづく

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