経験値
そして俺は、再度パーカーの男と対峙した。
「今度は同着ってとこか。お前も桐生光太郎に目をつけた、井上岳志」
パーカーの男は薄ら笑いを浮かべて言う。
俺は無言で、決闘のクーポンを起動した。
世界が白に塗りつぶされる。
そして俺達は、なにもない白い世界に投げ出されていた。
「なるほど、これが噂の神族御用達のフィールドか。しかし模造創世石の力を使えば破るのは容易い。容易い、が……」
パーカーの男は周囲を見渡していたが、俺を見て微笑んだ。
「ここで邪魔者を排除しておくのも悪くない」
俺は無言で双刀を呼び出した。
相手は模造創世石を所持しているはず。それさえ奪えれば良い。
次の瞬間、相手は縮地さながらの速度で接近してきた。
自らの身体能力を弄ったのだ。模造創世石で。
繰り出される連打、連打、連打。
それを冷静に捌いていく。
身に覚えがある単調な攻撃。
これは、昔の俺だ。
実戦経験値の足りない、昔の俺。
俺は水面蹴りで相手の体勢を崩すと、腹部に足を落とした。
相手は唾液を吐き、悶絶する。
ポケットから、黄金の石が転がり落ちた。
「創世石……俺の創世石……」
「いくら身体能力が高くても、戦いの方が素人ではな」
俺は淡々と言って、模造創世石に近づいていく。
次の瞬間、模造創世石は自らの意思を持つようにポケットに戻っていった。
パーカーの男はダメージがなかったかのように跳ね起き、俺と距離を置く。
そして警戒した様子で、俺を見た。
「……認識を改めよう。お前は警戒に値する男だ、井上岳志」
「……決着をつけよう」
「乗るかよ」
彼がそういった瞬間、白いフィールドに割れ目が走った。そして、彼はその割れ目に跳躍し、外の世界へと飛び出していってしまった。
「流石は模造創世石、なんでもありだな」
俺はやれやれと呟くと、クーポンの世界を閉じた。
後は彼が追いつく前に、桐生光太郎と合流するだけだ。
あの強い気配を気取られなければ良いのだが。
つづく




