模造創世石に潜む影
黒服が扉の前の刹那に気づく。
「お前はなんだ? なんでここにいる?」
刹那は咄嗟に建前を口走った。
「私は彼の関係者です。関係者として入場したので優勝が決まった際にここに案内されました」
「そうか……? まあ良い。中に入るが良い」
そう言って、黒服は扉を開けた。
「見てましたか、刹那さん。やりましたよ!」
章介はウキウキしながら言う。
「ごめん、見てなかった」
ばっさりと言う。
ここまですげなくされてそれでも犬のようにつきまとうのだから根性があるというかなんというか。
扉の奥で待っていたのは、ベッドで横たわる老人だった。
やせ細り、鼻からはチューブが伸びており、手には点滴が繋がっている。
「月上章介。見事な戦いぶりだった。お前に託そう。願いを叶える金の石を」
「ありがたき幸せ」
「疑問が残りますね」
浮かれている章介と違って、刹那は冷静だ。
「願いを叶える金の石。そんな物があるのならば、貴方はまず自分の病床を治すべきでは?」
老人は苦笑する。
「これでも十分延命出来たんじゃよ……それももう限界じゃ」
なるほど。模造創世石を使うにも魔術の才がなければ限界があるということか。
もしくは、一体化がそこまで進んでいないか。
その事実は、一般人である彼にはわからないだろう。
老人は布団から金色に光る石を取り出した。
刹那は息を呑んだ。
間違いない。模造創世石だ。
それを老人は、章介の腕に託した。
その瞬間、老人の意識が掻き消えた。
章介が硬直する。
「章介?」
刹那は戸惑うように章介を呼ぶ。
章介は動き始めると、なんと、模造創世石を飲み込んだ。
「はははははは、手に入れたぞ、若い身体を!」
「なっ」
その言葉の意図を、刹那は瞬時に理解した。
模造創世石に、自分の意識を宿させたのだ。
それを飲み込んだ章介は、もう元の章介ではなく――。
「さて、お嬢さん。君の戦いぶりは監視カメラで見ていた。大層な戦いぶりだった。私も若い頃は腕に覚えがあってね。この若い身体のポテンシャル。君の身体で確認させてもらおうじゃないか」
「……見込み違いにがっかりすると思うわよ」
溜息まじりに言って、刹那は構える。
章介なら殴っても内臓破裂まではいかないだろう。
それがせめてもの救いだった。
しかし、章介の構えを見て、刹那は考えをあらためた。
(こいつ……できる!)
刹那は、覚悟を決めた。
章介は不吉な威圧感を漂わせている。
つづく




