俺はね、魔法使いなんだ
「俺はね、魔法使いなんだ」
俺の言葉に、美穂は目をしぱたかせる。
そして、理解が追いついたように苦笑する。
「またまた」
「本当さ」
そう言って、手に炎を浮かべ、握りつぶす。
それを見て、美穂はごくりと息を呑んだ。
「七年前、悪い魔法使いが世界を思い通りに書き換える石を世界にばら撒いた。俺はそれを回収する役目を担っていてね。美穂がそれを持っているなら、回収しなければならない」
美穂は真顔になって考え込む。
「おかしいと思ったことはないかい? 自分の見た試合だけ応援しているチームが大勝ちする。自分が見ている試合だけ凡ピッチャーが沢村賞レベルの好投をする。そんな偶然、何度も起こるかな?」
美穂は、恐る恐る、口を開いた。
「私の病気が治ってきたのも、石のおかげなの?」
俺は黙り込む。
「入院して長いけど、ある日いきなり、友達のベッドが空になっていることが時々あった。看護婦さんは教えてくれなかったけど、そういうことなんだって。私もいつかはそうならないかって、不安で、不安で……」
美穂の表情に、鋭さが宿る。
「私はそうならないと、思っていたのに」
ガラスが割れた。
黄金の石が、美穂目掛けてやってくると、その周辺を浮いて周回し始めた。
「岳志にだって、譲れない。私の人生は、私が守る」
「そりゃ、素直にはいどうぞとはいかないよな」
俺は諦めて、立ち上がると、神秘のペンダントを地面に落として決闘のクーポンを開いた。
周囲が白に塗りつぶされる。
チーズケーキが地面に落ちて崩れているのが視界の端に最後に見えた。
つづく




