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重なる不安

 不安というのは重なるものなのか、今回のケースもそうなることになってしまったのだった。

 それは、シフトの交代を了承した翌日。

 朝に先輩と雛子とバイトに入っている時のことだった。


 男が一人、入店した。


「いらっしゃいませー……って、貴文さんじゃないすか」


 先輩が砕けた調子になる。

 下の名前呼びだと? 俺の心は一気に不安水域まで急下降する。


「いやさ。追い出しコンパバイトの都合であやしいみたいな話聞いてさ。大丈夫かなって」


「あー、大丈夫っすよ大丈夫。そこの岳志君がシフト交代してくれましたから」


 貴文の目が俺に向く。

 そして、意味深にニヤリと微笑んだ。


「ありがとう。優しいんだな、君は」


「自慢の後輩ですよ。で、用事はそれだけで?」


「ああ、そんだけ」


「困るなー。コンビニに来たんだから買い物してってもらわないと」


「この商売人め」


「へへへ」


 貴文は苦笑交じりに店内をうろつき始めた。


「随分仲良さそうですね」


 俺はやや冷たい声で言う。


「テストの前年度の答えコピーさせて貰ったり。色々お世話になったんだー。今度抜けちゃうけどねー」


 今度抜けるなら安心か。そう自分に言い聞かす。

 自分以外の異性と先輩が親しくしているのを始めて見たから、心が吃驚してしまったのかもしれない。


「はい、スキャンよろしく」


「あー、雛ちゃんよろしく」


 そう言うと、先輩はレジを出て、品出しに向かった。

 その腕を、貴文は掴む。


(お前!)


 気安く先輩に触れるな、そう叫びそうになる。


「おいおい、お客様から逃げるなよ」


「逃げてなんか……」


「じゃあ、レジ、レジ」


 促されるままに先輩はレジに戻る。

 なんか子供みたいに良いように扱われる先輩というのも珍しい側面でレアなものを見た気分だった。

 それを見て、俺は不安が募るのを覚えたのだった。


 馬鹿らしいとはわかっている。

 けれども、不安は拭えない。

 だから、俺は大学の経験者。

 あずきの部屋を訪れていた。


 大丈夫だよ。

 今はその一言が欲しかった。


続く

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