軍勢激突
鬨の声が上がった。
地平線を埋め尽くさんばかりの軍勢が押し寄せてくる。
ギシニルが一歩前に踏み出し、叫ぶ。
「俺だ! 魔界六団騎筆頭ギシニルだ! 故郷を、俺達の故郷を取り返しに来た! シュヴァイチェを倒して元の平穏な魔界を取り戻そうではないか!」
しかし、軍勢は止まらない。その目は赤く、狂気に彩られている。
俺は慌てて、六華に話しかける。
「六華、アウラのスキル、姫の威厳は?」
「使ってる……」
「上書きされておるのじゃ。上位者にな」
六華の影から口惜しげにアウラが言う。
「彼らもまた犠牲者なんだ」
エドゥルフが言う。
「シュヴァイチェに操られた、な」
「くそっ」
ギシニルが地面を叩く。
同胞の現状に思うところがあるのだろう。
「どうする? 空を飛んで回避するか?」
「いや、それでは人界に彼らが突入する」
俺の提案を冷静にギシニルは退けた。
そして、ギシニルは手を掲げた。
「頼む、お前ら。奴らを足止めしてくれ。その間に、俺達はシュヴァイチェを討つ!」
その瞬間、ギシニルの影から悪魔の軍勢が姿を現した。
各々、覚悟を目に宿している。
「良いかお前ら。これは故郷を取り戻す戦いだ。俺等は馴れ合うようなタチではなかった。しかし、自由な故郷を愛していた。それはけしてシュヴァイチェの支配する世界ではないはずだ」
「おう!」
異口同音に軍勢が声を上げる。
「どうか俺達を信じて、この場で持ちこたえてくれ!」
「おう!」
「これでどうだ、イノウエタケシ」
ギシニルは試すように俺を見る。
俺は苦笑した。
「頼りになるな、お前は」
「行こう。多分シュヴァイチェは長老の家にそのまま住んでいるだろう。俺達は敵のトップを暗殺し、ギシニルによる革命を目指す」
エドゥルフの言葉にギシニルは目を丸くしたが、頷いた。
「俺が魔界を元の姿に戻す」
「そのためにも、シュヴァイチェ討伐だな」
「ああ」
「もう一度あずきのご飯を食べて宴会しよう」
エイミーが言う。
「おう!」
そう言って手を繋ぐと、俺達は空を飛び始めた。
あちらの大軍勢とこちらの中軍勢がぶつかりあった。
形態変化を繰り返し、悪魔の力を神の身に取り込んだシュヴァイチェ。今、一体どんな姿になっているのだろう。それを想像し、俺は一つ身震いした。
ついに最後の敵に、出会う。
つづく




