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子供はまだか?

「岳志、岳志」


「なんだ? またか?」


 最近アウラは俺を呼びに来ることが多い。

 例えば打者の打撃フォームを解説しろだとか、この選手はなにが強みなのか解説しろだとか、野球観戦はどの席から見るのが最適なのかだとか。

 懐いていると言っても良いかもしれない。


 それに不満げなのがそれまで俺を独占状態だったアリスだ。

 不満げだが大人しいたちなので無言で傍についている。


「ところで妾と共に歳を重ねる息子というのはいつ生まれるのだ?」


 俺は飲んでいた麦茶が変なところに入っていって咳き込んだ。


「お前なあ……」


 デリカシーというものがない。


「おかしなことではなかろう。お主は命を懸けた戦いの最中。もしもの時の為に跡継ぎは必要じゃ」


「時代が違うんだよ、アウラ」


 溜息混じりにアリスが言う。


「今はそうぽんぽんと子供が産める時代じゃないんだ」


「何故じゃ?」


「子供を育てるにもお金がかかる」


「岳志が人間界を守っておるのじゃろう。国が負担すれば良い」


「それも尤もな話なんだけど……」


「俺の彼女も大学を出て働きたいと言っている。子供を作るなんてまだまだ先の話なんだよ」


「大学とやらも働くのも子供を作ってからでよかろう。その相手にも父や母はおるのじゃろう? 世話はそれらに任せれば良い」


「俺達そこまで進んでないの!」


 自棄っぱちになって言う。

 アウラは目を丸くする。


「なんとお主、童貞であったか」


 アリスが頬を赤くする。


「十五を超えてそれはいかんな。あずき辺りにでも捨てさせてもらえるように頼み込んでやろうか」


「頼むからお前の時代の常識で物事を語るのは辞めてくれぇ……今はそういう時代じゃないんだよ。キリスト教が下地になった常識がベースになってて皆そういうのには恥じらいや節度を求められる時代なんだ」


「そうなのか? ああ、あれか。所謂草食系男子と言うやつなのか」


「もうそれで良いよ……」


 話しているだけで疲れてきた。


「しかしそれでは困るぞ。妾はお主の家系の監視下でしか自由を得られない。お主に万が一のことがあれば妾の自由もそこまでじゃ。一刻も早く子供を作ってもらわねばならぬ」


「いやいや、待て待て」


「遥じゃったか。今から妾が直談判してやろう」


 アウラはそう言って腰を浮かす。

 俺は泣きそうになりながらその後を追った。


「待て、アウラ。頼むからそれは辞めてくれ」


「何故じゃ? 妾が言っておるのは至極尤もな考えじゃ。何よりそなたの遺伝子が途絶えるのは人類の損失じゃ」


「六華がいるだろ六華が」


「六華はまだ頼りない。お主と妾が組んで負けることは万が一にもないと思うが、保険はかけておくに限るにな」


 アウラはずんずんと歩いていく。

 そして、あっという間に遥の部屋の前に辿り着いた。


「遥、おるか」


「アウラー? いるけどー? もうすぐ面接だから時間はそんなに取れないわよー?」


「その話じゃがな、お主の就職活動は一旦中断じゃ」


「はい?」


 不可解そうな口調になり、遥は部屋の扉を開ける。


「遥。お主、岳志と子供を作れ」


 俺は頭を抱えた。

 姫じゃなくなってもアウラは十分爆弾娘だ。



つづく

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