いざ、最深層へ
アリエルの四方に光が灯る。それは迷宮を走っていった。
俺の広げた迷宮の地図に光が灯る。
地図に異変が起こった。
なんと、階層が現れたのだ。
一階層しかないと思っていた迷宮。それが今、四階層になっている。
「一週間分の食料の備蓄でやれるのか……?」
俺は弱気になりつつ言う。
「やるしかないにゃよ。シュヴァイチェは悪魔の力を取り入れた。対抗するなら竜の力を取り入れる必要がある」
「なにそれ、岳志さんだって私って悪魔の力取り入れてるじゃん」
アリスが話をややこしくする。
「アリス、相手は神だ。強化に強化は重ねたほうが良いんだ。実際に俺は神に敗北に近いドローを喫している」
「むー」
アリスは難しい表情になる。
「岳志さんが死ぬのは本意じゃないから協力する」
アリスはそう言うと、地図を引ったくって歩き始めた。
その後を、アリエルと顔を見合わせて苦笑してついていく。
キイキイ、と嫌な声がした。
昔は、こんな小さな魔物の声にも怯えたものだなあと懐かしむ。
巨大な目玉に翼がついたモンスターが、その場に現れていた。
さて、アリスはどんな反応を見せるだろう。
興味深く見守る。
「ブラッドティアー!」
人差し指でモンスターを指すと、血弾を発射して一撃で粉砕していた。
「なんだ、こんなモンスターしかいないの? ペース上げても良さそうだね」
(……スタート段階が違いすぎる)
ただの人間だった俺とヴァンパイアから始めたアリス。
迷宮のクーポンの世界での初戦の戦果が違うのは当たり前なのだった。
「初期の岳志はあのモンスターにビビり散らかしてたにゃ」
「岳志さんが? まさか、あんな雑魚だよ?」
やめろアリス。その言葉は俺に効く。
そんな調子で、俺達の迷宮探索は始まったのだった。
思えば、あの頃は俺も普通の人間だったんだよな。
どこへ行った、当時の俺。
つづく




