エドゥルフは優雅に魔界を歩く
エドゥルフはバリアに身を包み、富士山の火口を静かに降りていった。
そのうち、異界への門を探知する。
思ったより、近い。
門が明らかに近くなっている。
これは中級悪魔クラスならば地上に這い出てこれるわけだ。
心の中で溜息を吐く。
これができる人材を思い浮かべるなら一人。
シュヴァイチェ。
創世石を求めて創世神殺しを企てた大罪人。
(思ったより魔界でエンジョイしてるみたいじゃないの)
呆れつつも思う。
溶け込んでいなければ門を近づけるなんて集中力のいる荒業使っている暇はないだろう。
魔界とシュヴァイチェは協力関係にある。そう見たほうが良いだろう。その考え方は、天界の主流でもある。
それでもエドゥルフが派遣されたのは、まあ、釘刺しも兼ねてのことだ。
魔界に降り立つ。
一面の闇夜。
生い茂る雑草。
花の花弁から光が放たれている。
「変わらないな」
エドゥルフは呟く。
(神様は魔界に来たのが初めてではないので?)
アリエルの使い魔が訊ねる。
「数度、訪れたことがある。アリエルもエリセルも生まれる数千年前のことだ」
(その頃から悪魔はいたのですか)
「むしろ、地上にも悪魔は多くいたぞ。安倍晴明によって封印されてしまったがな」
アリエルの使い魔は状況の整理に戸惑うように黙り込む。
エドゥルフは宙に浮くと、叫んだ。
「我は天よりの使者である。神々の考えを伝えに来た。怒りを買いたくなければすぐに会談の準備をすることだ」
その声は、さほど大きくないのに、遠くまで響き渡った。
魔力の影響範囲内まで響き続けることだろう。
エドゥルフは地面に降りた。
アリスの使い魔がエドゥルフの影に隠れる。
悪魔が十数体、エドゥルフ求めて駆けてきた。
「神様だとよ」
「見ろよ、極上の魔力だ」
悪魔達は涎を垂らさんばかりだ。
彼らは目配せすると、一斉に飛びかかってきた。
エドゥルフは呟くように言う。
「天雷」
世界が真っ白に輝いた。
雷が降り注ぎ、周囲の悪魔を一斉に撃った。
硬直した悪魔達は一匹を除いて次の瞬間首を断たれていた。
残った一体は地面に落ち、かろうじて起き上がろうとする。
エドゥルフは笑顔で、その髪の毛を引っ張り上げた。
「君達のボスの居所はどこかね?」
「そ、そんなこと……」
「君は命が惜しくないクチか?」
エドゥルフはそう言って、さっき取り出した長剣を悪魔の首筋に当てる。
「俺は天界の中でも武と術を両立させているタイプだ。お前ら悪魔の天敵だぞ」
悪魔は観念したような表情になり、首都への道筋を述べた。
エドゥルフは上機嫌に立ち上がると、優雅に歩き始めた。
道中に何匹もの悪魔が現れたが、斬る、斬る、斬る。
(ネゴシエーターがこんなことしてて良いんですか?)
アリエルの使い魔が恐る恐る訊く。
「なに、正当防衛だ。悪魔の本能を考えれば相手さんもそれで納得してくれるだろう。上級悪魔は頭も回る」
本当かなあと疑わしげな使い魔なのだった。
エドゥルフは歩く。
広大な魔界を我が物顔で。
つづく




