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轟く山

 その日、刹那はクラスメイト達とファミレスで勉強をしていた。

 そして、不意に感じた。

 悪寒のようなものを。


「どうしたのー? 刹那。急に怖い顔して」


 クラスメイトの一人が怪訝そうな顔をしたので、刹那は慌てて表情を取り繕う。


「なんでもないの。ちょっと、嫌な予感がしたっていうか」


「ふーん、変なの」


「けど刹那の勘って結構当たるからなー」


 そうでもないんだけどな、と刹那は苦笑する。

 そしてこれが、ただの錯覚であることを祈った。

 悪魔の話が出てから、常に思っている。


 飛んででも、東京へ行きたいと。



+++



「今日も富士山は封鎖されているようですね。なにやら噴火の危険も囁かれていますが、詳しい話はまったくわかっていないようで。前代未聞ですねえ」


 テレビからは困惑するようなアナウンサーの声がしている。

 富士山が封鎖されてからどれだけの時間が経っただろう。

 悪魔の来訪は徐々に増えつつある。


 魔界は徐々に近づきつつある。

 しかし、俺達人間には火口を突破して魔物の大軍を蹴散らすような術はない。


 もどかしいとはこのことだ。


「天界はどうにかしてくれないのか?」


 何度も訊いたことだが、あらためてアリエルに訊いてみる。

 ソファーに座っている俺の後ろでカフェラテをすすりながら、アリエルは答えた。


「多分、魔界と天界の対立構造になることを天界は恐れているにゃ。天界には術方面の使い手が多いからにゃ。天は人に強く人は魔に強く魔は天に強いと言えるかもしれないにゃね」


「頼りにならないことで。安倍晴明は相当の使い手だったがな」


「あれは天界にいたとしても指折りの使い手だにゃー」


 なるほど。封印するしかなかったわけだ。

 その時、スマートフォンが鳴った。


 俺は電話に出る。


「岳志、落ち着いて聞いて」


 エイミーからの電話だった。

 緊迫した口調だ。


「どうしたエイミー? 誰かになにかあったのか?」


「富士山の火口から二百体規模の悪魔が姿を現した」


 俺は息を呑んだ。


「私達の出番だよ、岳志。政府は支援を私達に依頼してきた」


 ついに団体戦か。

 六華やアリスも巻き込むことになるのか。

 俺は後ろめたさを感じつつも、自衛隊や陰陽連のサポートに期待しつつ戦地に赴くことにした。

 遥が階段を降りてくる。


「遥」


 俺は言う。


「なに?」


 遥は、きょとんとした表情になる。


「全員で、帰って来るからな」


 遥は察したのだろう。辛そうな表情になったが、気丈に微笑んでみせた。


「貴方の力で、皆を守って」


 俺は、力強く頷いた。



つづく

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