嫌な予感
後藤の案内に従って、一同は狼男が出たという場所に移動していた。
「どうせ寝起きで寝坊してたんだべ」
「んだんだ」
悪霊のことを知らないおじさま方は呑気なものである。
しかし、俺は悪霊のことを知っているし、悪霊と三度戦ってきた。
その脅威は十分に知っている。
「どういうことだよ、悪霊ってあのクーポンの世界に現れるんじゃないのか?」
小声で、アリエルに問う。
「たまにいるんだにゃ、同化型が」
「同化型?」
聞き慣れない単語に俺は戸惑う。
「例えば皆、嫌な感情や邪な感情は自分の中から切り捨てるにゃ。年を取れば取るほどそれは上手になるにゃ。けど完全に捨てきれる例は残念ながら珍しい。それが残って悪霊となるにゃ」
なるほど、そう言えば悪霊と完全に分離できていたのは年長者ばかりだ。
「けど、捨てるのが下手な例、感情的にスランプな時期に嫌なことが重なると、同化型……つまり悪霊と一体化してしまう人間が生まれてしまうにゃ」
アリエルは淡々とした口調で言う。
そして、金色の瞳を細めた。
「厄介にゃよ。感情的な問題でね」
「分離とかは出来ないのかよ?」
「そいつの精神的な問題を解決できれば浄化できるにゃ。それはある種切り離された悪霊を倒すより容易いにゃ。たーだーし」
アリエルは苦い顔になる。
「解決できれば、の話にゃ」
「ここだよ、ここで出たんだ!」
後藤がまくしたてる。
閑静な住宅街の十字路だ。
四方に電信柱が立っている以外には家ぐらいしかない。
「やっぱりなにもないじゃんか」
「後藤ーお前よー。夜酒はほどほどにしとくんだなー」
「本当なんだってばよ!」
「気配が残ってる。追うにゃ」
そう言ってアリエルが小走りで駆け始める。
俺もそっと、集団を抜け出た。
走れば走るほど嫌な予感は膨れ上がっていく。
精神的な負荷を抱えた年少者。
一週間前から現れなくなった彼女。
そして、アリエルが辿り着いた地についた時、その予感は決定的になった。
長いトンネルを抜けて、広い海が俺達を出迎えていた。
雛子を自転車の荷台に乗せて見た海だ。
「うーん、残念だにゃあ。ここで気配は途絶えてるにゃ。正気に戻ったのかにゃあ?」
「いや……十分だよ」
俺の口から出た言葉は、想像したよりも暗かった。
続く
明日の二度目の更新はいつもより遅くなります。
ご迷惑おかけします。




