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エイミーの育ち

 エイミーはそれきり部屋に閉じこもってしまい、晩御飯の時間になっても降りてこなかった。

 アリスもいたたまれないらしく、案内された部屋に閉じこもった。

 仕方なく、残った皆で食事をとる。


 このままではいけない。

 そう思い、俺は食事に手を付ける前に、エイミーの部屋へと向かった。

 部屋の扉をノックする。


「……誰?」


「岳志だ」


「今は誰とも会いたくない」


 いつもの天真爛漫なエイミーからは考えられない、ダウナーな声だった。

 こんな声、初めて聞いたかもしれない。


「俺は今、お前と話したいんだ」


「どうせアリスのことでしょ」


「そうだよ」


 正面突破。それ以外に考えてはいない。


「このまま追い返して、後悔しないのか? お前」


 エイミーはしばらく黙り込んでいた。

 しかし、そのうち、観念したように言った。


「入って」


 部屋に入って、扉を閉める。

 エイミーは窓の外を眺めて、星空を見ていた。


「どうしてあんなにアリスに冷たいんだ? あいつはお前を慕って、日本語まで覚えたんだろう?」


「簡単に言えば、嫉妬かな」


 エイミーは、淡々とした口調で言った。


「お前にもあるんだ、そんな感情」


 俺は意外な思いでその言葉を聞いていた。

 エイミーは天真爛漫で純粋で、他人に嫉妬なんかすることないと思っていた。

 過去に付き合っていた俺ですらそう思っているのだから、大抵の人間がそう思っているだろう。


「近しいからこそ、だよ」


 エイミーは苦笑混じりに言う。


「何度か、バーランド邸に泊まったことがある」


 それは意外だった。

 エイミーは彼女の父の浮気相手の娘だ。居場所があるとは思えないが。


「アリスは全てを持ってた。愛してくれる母親。慈しんでくれる父親。可愛がってくれる兄。私にないものを、全て持ってた」


「けど、お前にだって母親はいただろう」


 エイミーは振り返り、微笑む。

 世の中全てを皮肉ったような微笑みだった。


「血縁上のそういう人は、いたわね」


 俺はまた、背筋が寒くなるのを感じた。

 普段の明るいエイミーと今のエイミーの台詞のギャップが、エイミーの影を写すようで、薄ら恐ろしく感じさせられたのだ。


「あの人は、私の肉体しか見ていなかった。英雄ロイ・バーランドのDNAを持った肉体。金色の目に青色の瞳。祖母譲りの美貌。そんなものしか見ていなかった。私はブランド品のバックみたいなものだったわ。アリスの母親のように、真っ直ぐ愛してくれる人ではなかったの」


 エイミーの一言一句には絶望が籠もっていた。

 だからか、エイミー。晩御飯は皆で食べたいと、共同生活を始める時に決めたのは。

 少しでも家族の形を模倣できるようにと。

 まるで、砂浜で最後には波にさらわれるのを待つ砂の城を作るかのように。


「だからね、今回の件は呆れてる。なんて贅沢なんだろう、って」


「けど、事情も聞かなくて良いのか?」


 エイミーは、ぐっと詰まる。

 感情的になりすぎて、理論的な思考が出来ていなかったのだろう。


「頼りになる両親がいて、それでも国外にいるお前を頼った。そこには、とんでもない事情があるんじゃないのか?」


「……一理あるっちゃあるわね」


 エイミーはまた、星空を見上げる。


「明日になったら、聞いてみようかしら。それなら、晩御飯でも食べようかしらね」


 俺は胸をなでおろした。

 これで、皆で食事ができる。

 その時、あずきが飛び込んできた。


「アリスちゃんがいないの!」


 その一言で、俺もエイミーも真顔になった。


「荷物もないわ!」


 顔面蒼白とはこのことだ。



つづく

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