へー、これは岳志の初恋も頷けるわ
この頃の遥はと言うとギリギリの単位と就職活動で隙間時間が殆ど無いような状態に追い込まれていた。
今日帰ってきたのも夕方過ぎだった。
「お帰り」
そう言って門まで行って出迎える。
「ただいまー。ヒールの履き慣れないこと履き慣れないこと」
ぼやきつつ家の中に入っていく遥である。
「今日は珍客来てるよ」
俺は苦笑混じりに言う。
「珍客?」
「多分腰抜かすと思う」
「へえ、そりゃ楽しみ」
余裕顔で扉を開けた遥である。
彼女の表情は居間まで行って硬直した。
六華と雛子がアリスを囲んで質問大会をやっている。
アリスのエイミーそっくりの表情を見て、遥の喉がごくりと音を立てた。
「なに、あのちっさいエイミー」
「アリス・バーランド。エイミーの腹違いの妹だそうだ」
「はー……」
遥は感心したように言って腕組すると、アリスを足元から毛先まで値踏みするように見る。
「へー、これは岳志の初恋も頷けるわ」
「婚約者がそう人の古傷をずけずけと刺さないでくれないかね」
苦笑混じりに言うしかない。
しかし、変な気分になっているのは事実だった。
自分の恋人だった時代のエイミー。彼女そっくりのアリスがそこにいる。
その事実がノスタルジックな気持ちを呼び起こしていないと言ったら嘘になる。
「アリス!」
遥が声を掛ける。
「遥! 岳志ノ婚約者ネ?」
「そうよー。貴女のお姉さんとも友達だから、仲良くしてね」
「ウン」
アリスは笑顔になる。
ああ、嫌だな。
フラッシュバックしてしまった。
プレゼントを渡した時のエイミーの笑顔。
ドアホンが鳴った。
「誰かー門開けてー」
エイミーの声だ。
丁度良いとこに来た。
俺はウキウキと玄関に向かって歩き出す。
腹違いとは言え姉妹の対面だ。
きっとアメリカ式の熱い抱擁が交わされることだろう。
エイミーならきっと妹を可愛がるに違いない。
俺は玄関を出て、門まで行って鍵を開けた。
「珍しい客が来てるぞ」
「ホント?」
ちょっと疲れた様子だったエイミーは、俺の言葉に表情を華やかせる。
「ああ、お前が喜ぶような珍客だ」
「誰誰?」
歩きながら、二人して歩く。
それにしても、随分身長差ができたものだ。
また背丈が伸びたのかもしれない。
「アリス・バーランド」
エイミーの歩みが止まった。
「エイミー?」
エイミーは俯いていて、表情が見えない。
「困る」
呟くように、エイミーは言った。
「だって、ここは私の家だもん」
「ああ、だから、お前の妹がいても良いだろう?」
「あの子の家は、別にある」
エイミーは、きっぱりとした口調で言った。
それに俺は唖然とした。
それははっきりとした拒絶を籠めた口調だった。
「ここは、あの子の家じゃない」
エイミーは、はっきりとそう断言していた。
皆の避難場所として疑似家族を構成していた俺達。
そこに、思わぬ亀裂が入ろうとしていた。
つづく




