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深夜の来訪者

「ということで、別の部屋に移っていただきたいと思います」


 美里は笑顔でそう言った。

 その背後には寝間着姿の三人娘がいる。


「はあ……」


 スマートフォン片手で寝入りつつあった俺は唐突な話にぽかんとするしかない。


「鍵付きの部屋はやはり女性が使うべきかと思いまして。申し訳ないのですが井上様は別の部屋に移動していただきます」


「部屋かたすからちょっと待ってもらって良い?」


「どうぞどうぞ」


 私服をスーツケースに突っ込んで、ポケットWifiをポケットに入れて、それらを持って部屋を出る。

 三人娘が入れ違いに部屋に入っていった。


「……これ、なんかの仕込みじゃないよな?」


「まさか。六階道家はお客様に失礼はしません。万全の礼を籠めておもてなしをする次第です」


「客室変更の時点で礼もなにもなくないか……」


「さ、こちらへ」


 聞いちゃいねえ。

 誘導されて通されたのは二階の角部屋だった。

 テレビとベッドが設置されている辺り、来客の寝室を想定してデザインされた部屋なのだろう。


「では、ごゆっくり~」


 美里は上機嫌にそう言うと、部屋を後にした。

 怪しい。

 これは、非常に怪しい。


(これは、俺も対策を練らねばなるまいな……)


 そう思い、俺はポケットからスマートフォンを取り出した。



+++



 深夜に、部屋の扉をノックする音。

 反応はない。

 部屋に侵入する影があった。

 影は恐る恐る、しかし徐々に大胆に、ベッドに近づいていく。

 月明かりが、その顔を照らした。

 六階道刹那。二十歳以上にも見える美貌の持ち主だ。


 顔は真っ赤で、目は潤んでいる。

 彼女は目を閉じると、ゆっくりと俺の額にキスをした。


「おはよ」


 俺がそう言うと、刹那は飛び跳ねて数歩後退し壁にぶつかる。

 棚から花瓶が落ちて地面に転がった。


「月が綺麗な夜だ。話でもするか?」


 刹那の頬が徐々に紅潮していく。

 俺は無言で、ベッドの隣をとんとんと叩いた。



つづく


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