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完全復活

「じゃあ今日も打撃練習の一番手はタケちゃんにお願いしようか」


「ありがとうございます!」


 前回はてんで駄目だった打撃練習。

 今回はどう転ぶか。


 バッティングピッチャーがボールを投げる。

 それを、捉えた。


 骨を折る嫌な感触が蘇る。

 けど、今は、それはそれという感情が勝る。

 だって、約束したのだ。

 光の当たる道でもう一度活躍するのだと。


 金属音がなる。

 ボールは高々と飛んで、グラウンドを横断した。


 手応えあり、と言った感じだ。

 その後のバッティング練習でも、俺はそつなく作業をこなした。


 意外だったのは守備練習のメンツ。

 雛子がノッカーをしている。それも器用に内野外野に打ち分けている。

 素人ならバットに当てるのも難しいはずだ。

 どこでそんな技を覚えたのだろうと思う。


 ふと、こちらを見ている幸子と目があった。

 幸子は、親指を立ててグッドサインをした。

 俺も、グッドサインで返した。


 帰り道、四人で帰る。


「完全復活でしたね、岳志君!」


 幸子がやや興奮気味に言う。


「あー、まあ。ちょっと野球部とのいざこざが片付いて心の整理がついたというか。それはそれこれはこれで片付けれられるようになったというか」


「スランプだったんだ?」


 肩で切りそろえた黒髪を揺らして、眼鏡の雛子が問う。


「コンビニの強盗をバットで退治してからどうもな。バットを使うことに抵抗があった」


「優しいんだ」


「そんなこと言ったら、そんなんじゃねーよって否定するのが捻くれた岳志にゃよ」


 駄猫が滑稽そうに言う。

 その通りなのにぐうの音も出ない。


「まあ、後は待ってろ大会って感じだ」


「けど、本当に凄いホームランだった」


 雛子は、噛みしめるように言う。


「ちょっと、色々すっきりしちゃったな」


「勉強に身が入りそうか?」


「勉強なんて頼まれたってお断り」


 そう言ってケラケラと笑う。

 こちらはこちらで間違った方向に捻くれてしまっているというか。


「勉強はやっとけよ。じゃないと俺みたいに後になってから苦労する羽目になる」


「高認目指してるんだっけ」


「大学受験もな」


「大丈夫だってー、六華がプレイ動画編集してどっかの野球部に売り込んでくれるよー」


 否定できないのが辛いところだった。

 その時、野球部の朝練部隊とすれ違った。

 野球部の朝練部隊は少しやりづらそうにしていたが、そのうち声をかけてきた。


「岳志、おはよう」


「おはよう」


「おはーっす」


 恩を感じているということだろうか。嬉しくなる。


「おはよ。俺も小さい大会だけどそれに向けて頑張ってるから、お前らも甲子園頑張れよな」


「嫌味かよ。俺達大半応援席だ」


 どっと笑い声が上がる。

 うーん、今日の俺、絶好調。


「勉強は大事なんだよね、岳志君」


 雛子がウキウキとした様子で言う。


「ああ。とーっても大事だ」


「じゃあ、私に勉強、教えてよ」


 何故そうなる。

 晴天に暗雲が立ち込めてきた気分だった。



続く

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