泥仕合
刺した、斬った、断った。
しかし、こたえない。
悪夢の中にいるようだった。
刺した傷や斬った傷は瞬時に回復し、断った腕はくっつけた瞬間に元に戻る。
俺の退魔の短剣が一つも通用しやしない。
実力差は歴然。
ただ、相手の突出した耐久力が勝敗を先延ばしにしている。
「面白い、面白いぞイノウエタケシ。お前を喰らった日には何処まで自分を高められるか……今から楽しみでならない」
そう言って、口元の血を拭い、ギダルムは微笑む。
「実力差は明白だ。お前はシュヴァイチェの足元にも及ばない」
俺はきっぱりと言い切っていた。
「魔界に戻り、仲間達にもそれを告げ、大人しくそこで生活するんだな」
ギダルムは滑稽そうにニイと笑った。
「魔界では、人間界侵攻の方に議論が進んでいるんだよ、イノウエタケシ」
その一言で、俺は一気に背筋が寒くなった。
「だから、俺は、その前に美味しいところをいただきに来たところだ」
「そうかい。なら仕方あるまい」
必殺技を出すしかあるまい。
手に雷光を集め、バックホームのイメージで放つ。
「サンダーアロー!」
雷の速度を避けれるわけもなく、それはこちらに直進していたギダルムに直撃した。
しかし、それは相手の動作を一瞬止めただけで、次の瞬間にはギダルムは平然とこちらに向かって駆けてきていた。
「効かない!? サンダーアローが!?」
「児戯児戯児戯児戯!」
動揺の隙を突かれた。
肩を食い破られた。
背後に着地するギダルム。
その気配が、急速に強くなるのを感じる。
「きた……これだ。これが俺が追い求めていたもの」
ギダルムの肉体が膨張する。
筋肉で体が膨れ上がり、背筋は伸び、頭には一本の角が生えた。
「肩だけでこれだ。お前を完食した時には、どれほどのパワーアップが俺を待っているだろうな」
ニイ、とギダルムは微笑む。俺の血と彼の唾液が混ざったものが、その口から垂れていく。
こうなっては、奥の手を出すしかあるまい。
「出し惜しみは、やめだ」
ギダルムの表情が変わる。
「奥の手でもあるというのか?」
肩に手を置いてヒールを唱える。傷がみるみるうちに回復していく。
「ああ、お前があまりにも雑魚だったんでな」
その一言で形相を変え、ギダルムは一直線にこちらに突進してきた。
上手く挑発に乗ってくれた。
俺はサンダーアローを放つ。
それは一瞬、ギダルムの動きを止めた。
そして次の瞬間、両手の退魔の双剣に魔力を込める。
あかねの、収束の力の応用。
俺の魔力を、たっぷり双剣に吸わせる。
双剣が目を開くのも辛いほどまばゆい輝きを放ち始めた。
「なっ……」
ギダルムが絶句して立ち止まる。
その表情は、蒼白になっていた。
「ダブル……」
一本を投じる。
閃光が走る。
それはギダルムの脇腹に突き刺さった。
「インパクト!」
追撃の二本目。
それは同じ箇所に突き刺さる。
魔力と魔力は混ざり合い、暴走する。
大爆発が起こった。
ギダルムの上半身は木っ端微塵に吹っ飛んだ。
それでも下半身が残っているのが大したものだ。
俺はその場に座り込む。
魔力の大半を持っていかれるのがこの技の難点だ。
ここぞ、という時にしか使えない荒業だ。
この先も、使い所が制限されるだろう。
それでも、勝った。
俺はやっとのことで立ち上がると、ギダルムの足が動かないのを確認し、その下半身を引きずって家へと歩き始めた。
今は、エイミー邸の皆と、もう一つの家族達と、穏やかな日常を過ごしたかった。
つづく




