富士山の暗雲
「富士山の山頂に暗雲が立ち込めて一週間。落雷の危険もあり、一般人の登山は禁止され――」
テレビのニュースでは富士山の上に現れた暗雲について語られている。
俺、遥、エイミー、アリエル、あかね、六華、雛子、あずき、紗理奈、そして女神が、居間に集まっていた。
「で、どういうことなんですか?」
女神が腕を組み、難しい表情で答える。
「魔界と人間界の門が開かれました」
場に沈黙が漂う。
まず、魔界という単語が初めて聞くものだ。
「安倍晴明は鬼を使役したと聞きます。つまり、魔界との間に昔は門はなかったと考えるべきなのでしょうか?」
あかねが口を開く。
「そうですね」
女神は頷く。
「その門を閉じたのが他でもない安倍晴明自身です。自分では制御しきれぬと判断したのです」
沈黙が漂う。
アリエルが口を開く。
「魔界には鬼や悪魔がいるにゃ。身体能力は人間とは比較にならない。火口を超えて登ってこれるような奴は一握りだけど、そんな奴がいるとするならばそれは純然たる脅威にゃね」
「奴らは人間界で暴れると?」
俺の言葉に、女神は暫し考え込む。
「多分、人を喰らうでしょう」
再度、沈黙。
「陰陽連の部隊を多く東京に送り込むように進言してきます」
そう言ってあかねは立ち上がってその場を離れる。
「私は自衛隊を富士山付近の監視に回すように政府に進言してくるよ」
そう言ってエイミーもその場を離れる。
「気になるのはシュヴァイチェの動向です。彼は形態変化を身に着けたという。神としての尊厳を捨てたのです。彼が魔界でどんな異形になろうとしているのか……ここに至っては、神殺しの長剣は残しておいたほうが良いでしょう」
女神の言葉に、俺は頷いた。
「しばらくは平和な時間が流れると思います。しかし、そのうち彼らは攻めてくるでしょう。それまで、覚悟の時間を。私達もこれからは動きます。これは、人間界だけの問題ではない」
そう言うと、女神は宙に浮き上がった。
「貴方達に、暫しの平和を」
女神は、光りに包まれて消えた。
「またとんでもないことになってきたな……」
俺は片手で頭を抑える。
あこでシュヴァイチェにとどめを刺しておけば。
そんな後悔が次々に湧いてくる。
「けど、しばらく平和な時間が続くって彼女は言った」
遥が、明るい声で言う。しかし、それは明らかに作った声ではあったが。
「私の家に、挨拶にいこ」
俺は目を丸くした。
そうだ、俺にはとんでもないイベントが待っているのだった。
お嬢さんを僕にください。そんな台詞、言う日がくるとは思ってもいなかった。
つづく




