なにかの具現化
落ち着かない、というのが正直なところだった。
アリエル抜きの初の実戦。
ナビである彼女がいなければ、相手がなにの具現化なのかもわからないし、巻き込まれた女子中学生を避難させてくれる人もいない。
ただ、安堵したこともある。
これは、俺の手に負える範囲だ。
さながらシャドーウルフと言ったところだろうか。
黒い狼は、唸りながら俺を見ると、素早く駆け寄ってきた。
俺は、前回の戦いで覚えたスキルを使うことにした。
「サンダーアロー!」
フラッシュを焚いたかのような眩しい光が迸った。
光の矢が相手に達し、元から黒かった相手はあっという間に炭化。
これはちょっと使い所が難しいかもしれない。お手軽で強力すぎる。
ワイシャツの男性の手からソフトクリームが一個落ちる。
「私は、なんということを……」
「悔い改めれば良いんですよ」
俺は言う。
彼がなにを踏み間違えたかはわからない。
けれども、あずきだって、野球部の彼だって、そうだった。
感情の具現化に取り憑かれてやっていたことは、その後になって挽回している。
「あ、ああ……」
ワイシャツの男性は、感動したように、打ち震えていた。
そして、場面はコンビニの駐車場に戻る。
「どうなっちゃったんだろう。先生、大丈夫?」
妹と同じ中学の女生徒がワイシャツの男性の顔を覗き込む。
ワイシャツの男性はずいとソフトクリームを差し出し押し付けると、背を向けた。
「すまん。やっぱ教師と生徒の間でそういう関係っていうのは、無理だ、無理。話はなかったことにしよう」
「え? 先生? 先生!」
「深入りする前に冷静に戻れて良かった」
言ってる間にもワイシャツの男性は車に乗り込んで、去っていってしまった。
なるほど。
言わば、さっきのは色欲の具現化と言ったところか。
それにしても、人は見かけによらないものだ。
肩までの綺麗に切りそろえられた髪に眼鏡。白い肌に生真面目そうな目。図書委員会なんかが似合いそうな真面目そうな子だ。
途方にくれたような表情で視線を彷徨わせていた彼女は、俺を見ると、宝物でも見つけたかのように目を丸くした。
「あー、岳志さん?」
「はい?」
おいおい、俺にこんな知り合いいないぞ。
そう思いつつ、ふとコンビニに視線を向けてげっとなった。
レジ打ちに慣れていないウリエルに変わったことでレジには長蛇の列が出来ていた。
俺は、慌ててバイト戦士へ戻ることにした。
「バイト終わるまで待ってるねー!」
少女は無邪気に言う。
何故に?
そんな疑問を飲み込みつつも、俺はバイトに戻った。
ウリエルから意識を取り戻した先輩は、列を確認して表情が真っ青だった。
続く




