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いちゃいちゃ

 ベッドに遥が寝転がって小説を読んでいる。

 俺はベッドに背を預けてYouTubeを見ている。


「見てよこれ」


 そう言って俺は画面を遥に見せる。

 遥はくすりと笑うと、視線を本に戻した。

 俺も、画面を元の位置に戻して動画に集中し始める。

 穏やかな時間が流れていた。



+++



 決定打になったな、というのがあずきの実感だった。

 今まで、岳志と遥は初々しいカップルだった。そこから、進展がなかった。

 それが、今回の件で完全なカップルになった。

 それを裏付けるように、朝から二人は部屋に入り浸りだ。


 いつかはこんな日が来るかとは思っていたのだが、いざやってくると少し憂鬱になるものである。

 別に二人を応援していないわけではないし、応援したいと思っている。

 けど、それとは裏腹に、私欲的な部分というものもあずきの中には存在するわけだ。

 あずきも聖人ではないというわけだ。


 雛子もそれを敏感に察しとっているらしく、台所で昼食の準備をしているあずきの横でぶーたれていた。


「私、あのあかねって人苦手っす。なんかあれで岳志君争奪戦に決着ついちゃった感じがしちゃったっていうか」


「案外背を押しに来たのかもね。遥ちゃんもあれで中々奥手だから」


 淡々と言いながら大根を切る。


「そもそも今までお兄ちゃんが優柔不断で誰にでも良い顔してたのが悪いのよ」


 雛子の逆隣にいる六華が言う。


「私が彼女だったらエイミーやアリエルなんて堪えられたもんじゃないと思うわ。エイミーは好きだけどね」


 それを言ったら自分も同じ穴の狢だなあとあずきは思う。

 年長者だから候補者に選出されていないだけで、隣の部屋で岳志を餌付けしていたのだから。

 年長者というのも悲しいものである。

 せめて後五歳若ければ、と思わんでもない。


 これでもVtuberとしての公式設定では十六歳だ。

 サバを読みすぎだと自分でも思う。


(けど自分以上にサバ読んでる人も往々にしているしなあ……)


 そういう業界である。視聴者もわかっててやっている側面がある。

 料理がいつの間にかできあがっていた。いつも以上に山盛りだ。


「雫さん。私、ダイエット中だって念を押したよね……」


 雛子が申し訳無さげに言う。


「けど私、これぐらい食べても太らないよ?」


 あずきは不思議に思いながら言う。


「雫さん代謝良いからー。私は部活してるから良いけどね」


 六華は苦笑混じりに言う。


(皆に料理作るようになってから量についてはいつも言われるなあ……)


 改めるべきかとも思うのだけれど、腹が減るよりはマシだろうと思ってしまうのも事実だ。


(けど三十越えたぐらいからがくってくるって言うなあ……)


 太るのは嫌だな、と思うのだが、拡張した胃が今更縮まってくれるだろうか、とも思う。

 悩みどころである。


 トイボックスにいた頃は食べても食べても太らないことで同期のメンバーに嫉妬されたものだ。

 やっかみ混じりにネタにされ、いっぱい食べる君が好きと視聴者にコメントされたのが懐かしい。

 流石に恥ずかしくて今のアカウントに移ってからは大食キャラは封印しているのだが、それでも前アカを知っている人からはいっぱい食べる君が好きなどと意味深なコメントが残されることがしばしばある。


 ちょっと調整するか、なんてことを思う。


「じゃあいちゃいちゃカップル呼んできます。エイミーは仕事だっけ?」


「うん、仕事。雛子ちゃん、アリエル呼んできて。陰陽連? の二人は客間だから私が料理運ぶついでに呼んでくるわ」


 そして昼食。


「パソコン新調しようと思うんだけど雫さん相談に乗ってくんない?」


 岳志に出し抜けに言われてあずきは戸惑った。


「唐突ね。お金はあるの?」


「貯金はあるし、京都での仕事でちょっとボーナスが入った。当面の生活には問題がないぐらいの収入。遥と映画見たいし、けど俺のパソコンはアリエルに乗っ取られてるしで、どうせなら新しいパソコンを買おうかと」


「うーん、Amazonプライム見るぐらいなら普通のスペックのパソコンで問題ないと思うわよ。FPSだの配信だのやるならそれ相応のスペックが求められるけど」


 二人で映画か。まるで同棲生活だなあ。羨望混じりにあずきは思う。


「岳志ー。私のパソコンなにもしてないのに壊れたままにゃ」


「お前えぐいぐらい儲けてるだろうからもう自分で治せよ……」


 呆れたように言う岳志である。


「そうね、アリエルには岳志から自立してもらわないと困るわ」


 遥が追随する。


「まるで新婚さんみたいだね」


 あかねがからかうように言う。


「そんなんじゃないわよ」


 軽く受け流した遥だが、ナイフとフォークを間違えて使うという凡ミスを犯していた。


(羨ましいな)


 そんなことを思うあずきだった。

 しかし、そんなことを考えていてはまた悪霊つきになってしまうかもしれない。

 皆のことを考えて明るくあろう。

 そう前向きに決意したあずきだった。


つづく

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