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同志にならないか?

「一つ、聞きたい」


 考えろ。時間を稼げ。

 この場を切り抜ける妙案。

 それをひり出すための時間を稼げ。


 細身の老人は穏やかに微笑む。


「なんだい」


「なんで俺にそんな話をする。問答無用で持ち去れば良かっただろう」


「なに」


 そう言って、老人は唇の片端を持ち上げた。


「安倍晴明という戦力の穴。そこに、君が同志として入らないかと思ってね」


 迂闊なことに、頭が真っ白になった。


「君は見てきたはずだ。苦しみ飢える人間達を。愛に飢え、または挫折し、満たされない人間達を。外れた君だからこそ、見てきたはずだ。彼らを救いたいとは思わないかね。創世石があれば、それができる」


 俺は黙り込んだ。

 答えは、不思議なことにすぐに出た。


「答えは、ノーだ」


「ふむ、即答か」


 意外そうに老人は言う。


「負けるから人は学習できる。挫折するから優しくなれる。最初から強い人間なんていない。一歩を踏み出す勇気や好奇心を勝ち取った人間が強くなれるんだ。俺はそれでいいと思っている」


「鬼瓦のように、その一度の挫折が致命的な物になったとしてもかい?」


「お前に鬼瓦のなにがわかる。鬼瓦の限界を何故決めつける」


 鬼瓦は確かに肘を壊した。けど、それだけで終わる才能とは俺には思えない。


「俺は鬼瓦を信じている」


「そうか、残念だ」


 老人は札を構えた。


「長剣と盾を寄越せ」


 しまった、問答に熱中して対策を練っていなかった。

 今からスマートフォンに手を伸ばすよりも相手の術が発動するのが先。


 ならば、反則技を使うしかあるまい。


(相手の目的は創世石だそうですよ、女神様)


 心の中で語りかける。


(これは人間界の範疇を超えてるし、相手の黒幕にも堕天使がいると考えて良いんじゃないですかね?)


 暫しの静寂。

 次の瞬間、神聖なオーラが部屋に吹き荒れた。

 女神が顕現していた。


 その瞬間、細身な男はガラスを突き破って部屋の外へと脱出する。


「助かりました」


 俺は溜息混じりに言う。

 女神も、溜息混じりに返す。


「良いように使われた気もしますが、創世石が目当てとなれば致し方ありません」


 女神は、そう言って手をかざす。

 緑色の清浄な光が、遥を包む。

 遥はうめき声を上げると、目を覚ました。


「私は……」


「細かい話はアリエルと合流してからにしましょう。貴方はその人間と今後の方針を話し合いなさい」


 そう言って、女神は消えた。


「遥、遥、遥!」


 そう言って、俺は遥の両肩に手を置く。


「悪かった。俺のせいで、迷惑をかけた」


 遥は苦笑する。


「いいよ。助けてくれたんだから」


「そうもいかない。今後、遥は狙われる」


 遥は真顔になって、息を呑んだ。


「……一緒に、住まないか?」


 俺の言葉に、遥はきょとんとした表情になった。

 その時、アラームが鳴る。


「やばい、バイト、遅刻! 扉の件も管理人さんに連絡しないと! あああ、窓も割れてる!」


 遥は慌ててスマートフォンを手にとって各所に連絡を始める。

 思いつきで出た言葉だったが、それ以外に妙案がないのも事実だ。

 しかし。


(俺の心の中の童貞は耐えきれるんだろうか……)


 そんな場合ではないと思いながらもそんな間抜けなことを考える今日このごろだった。



続く

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