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創世石

 遥の部屋に辿り着いて俺は絶句した。

 玄関が爆破されている。

 そして、侵入を阻むように、結界が張ってあった。


 幸い、早朝ということもあって気がついている人間はいない。

 退魔の双剣で結界を破り、内部に侵入する。

 テーブルの上に、スーツ姿の細身な老人が一人、座っていた。


 ベッドの上には遥が倒れている。

 その胸部が規則的に上下していることに、俺は安堵の息を吐く。呼吸があるということは生きているということだ。怪我らしい怪我も見受けられない。


 老人の顔には、見覚えがある。

 確か、陰陽連のお偉いさん。


「あんた、なんでここに?」


「岳志君。君の姫君は今お休みだ。私と話をしよう」


「……内容によるぜ」


「まあ、座り給え」


「断る」


 俺はそう言って、姿勢を崩さない。


「なにかあったら即座に遥を保護して撤収する。座っていたら動作が遅れるんでな」


「そう言うなよ」


 背後からなにかに掴みかかられる。

 さらりとした紙のような質感。

 しかし、人間の腕のような形。


 それに掴まれ、膝を押され、その場に崩された。


「君が安倍晴明を退治して、当方は貴重な戦力を失った。落胆しているところだ」


「……やっぱあんたが裏切り者か」


 確認はしていなかったが、このタイミングで俺と遥を同時攻撃してくる輩と言えばやっぱりそうなのだろうという確信はあった。


「我々の目的は、創世石の奪取だ」


「そうせいせき?」


「創る世界の石と書いて創世石と呼ぶ。なに、世界を操作する装置だよ」


 その一言に、俺は目を丸くした。

 話のスケールが一瞬であまりにも大きくなりすぎた。


「それを使えば、全ての人間はくだらぬ悩み、ストレスから開放されるだろう。世界の仕組みそのものが入れ替わるのだからな。無論、天から堕とされる者達はいるだろうし、彼らは反抗するだろうが」


 そう言って、愉快げに天井を仰ぐ。


「君の持つ長剣と盾は神殺しの為に安倍晴明が造らせたものだ。自分の分家の若者に武術を極めさせたのもそこのキーとなる守護像を突破させるためよ。我々に譲る気はないかね……まあ」


 そう言って、老人は札を一枚ポケットから取り出した。


「君に選択の余地はないがな」


 その目は、遥を見ている。

 俺は、息を呑んだ。



続く




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