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名残惜しむ者達

 刹那は眠れなくって、なんとなく縁側で月を見ていた。

 明日、自分だけ京都に帰る。それが名残惜しい。

 もっともっと、皆と仲良くなりたかった。


 部屋の扉がノックされる。

 こんな深夜に誰だろう。

 刹那は部屋の扉を開ける。

 エイミーが、浴衣姿で部屋の前に来ていた。


「や、せっちゃん。起きてるかと思ってた」


「なんでそう思ったんです? 深夜ですよ?」


「私も寝れなかったから」


 そう言って、エイミーは苦笑する。

 刹那も、つられて苦笑した。

 二人して、縁側に座って、月を見上げた。


「明日から、私だけ京都。なんだか名残惜しいです」


「私もだよ。私も当分はこんな遠出はできそうにない。だから、名残惜しいんだ」


 忙しい者同士なのだな、と思う。

 こんなところでも似ている、と思う。


「本当に、ブランコで一人きりだったんで?」


 今のエイミーのフランクさ、知名度を知っていれば信じられない話だ。


「ほんともほんと。帽子目深に被って髪の毛隠してね。俯いてた。なにが楽しかったんだかね」


 そう言ってケタケタと笑う。


「けど、そのおかげで、王子様と出会えた」


 そう言って、月を見るエイミーは眩しい。


「羨ましい。エイミーと岳志は、なんていうか対等って感じがする」


「せっちゃんと岳志も対等の戦友でしょ」


「世話を焼かれてばっかりで」


 苦笑顔になるしかない。

 迫っても拒否られたし。


「この年頃の数年は大きいからね。あれでも人生の先輩だ。学べることは多いと思うよ」


 そう語るエイミーも、実際の年齢より大人びて見える。

 自分もその年頃になる頃にはそんな貫禄が身についているのだろうか。


(自信、今ひとつないなあ……)


 なにせ、精神的鎖国期間が長かったから。


「あのね、伝えたいんだ」


 エイミーはそう言って、刹那の頭を撫でる。


「私は岳志やあかねちゃんやお母さんと一緒。なにがあってもせっちゃんの味方だよ。約束する」


 刹那は、胸を射抜かれたような気持ちになった。

 男だったら惚れていたかもしれない。


「ありがとう、エイミー。私もエイミーのこと、大好きです」


「ん、大好き同士だね」


 エイミーはニッコリ笑う。

 敵わないな、と思う。

 自然と懐に入り込む人懐っこさ。

 硬いエイミーにはないものだ。


「けど、岳志を口説いちゃ駄目だよ。遥さんがいる間はね」


 エイミーは真面目な表情になって言う。

 バレてたか。

 刹那はバツが悪い表情になって俯いた。


 良い旅行だった。

 友達と顔合わせできたし、仲良くなれた。一緒に遊んで、一緒にふざけて、一緒に勝負した。

 一生忘れられない思い出になるだろうと、そう思った。


「エイミー。ハリウッドデビューの噂は本当で?」


 エイミーは唸ると、苦笑して、月を見上げた。


「まだ企画段階の話だけど。しばらくアメリカに滞在する期間は生まれるね」


「そっか。帰って来るなら、安心です」


「せっちゃんも東京来れたらいいのにね」


「これでも六階道家を背負っている身ですので……」


「お互いままならないねえ。再会した時はさ、お酒でも飲めるかな」


「何年後想定ですか、それ」


 刹那は思わず苦笑する。

 苦笑して、少し考えて、冗談にならないんだな、と実感して寂しくなる。


「また、お母さんに仕事変わってもらって、東京に来ますよ。また会いましょう」


「ん、また会おう。しばらくお別れだ、せっちゃん。けど、私達は戦友だ。危険があればいつでも呼んでくれい。後、タメ口でいい」


 刹那はエイミーの顔を見ていられなくて、俯いた。


「頼りにしてるよ、エイミー」


 顔が熱くなる。


「ああ、任せろ、せっちゃん」


 エイミーは力強く答えた。

 こうして、二人の夜は更けていく。



続く




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