卓球大会開幕
「遥ー、待ってたよー」
遥達の部屋からあずきの声が聞こえる。
こんな時間から麻雀に興じるつもりだろうか。
やや呆れつつ自分の部屋へ戻ることにする。
入れ違いに、六華達が戻ってきた。
ひとっ風呂浴びたらしく、髪が濡れている。
浴衣姿が眩しい。
「温泉どーだった?」
「部活疲れが溶けたーって感じ」
「バイト疲れが同上」
「仕事疲れが同じくって感じかなあ」
「皆疲れ溜まってるんだねえ。刹那ちゃんの仕事ってなあに?」
幸子が興味深げに訊く。
刹那は気まずげに黙り込んだ。
「土地管理関係の仕事だよ。これでも旧家の当主だ」
俺が助け舟を出す。
「へー」
六華と雛子がハモる。
仲の良いことである。
「じゃあ六華ってお金持ち?」
「羨ましいなー。その割には庶民的だよねー」
「私、お小遣い制……雛子の方がよほどお金持ってる」
「ははは、働いてるからねー」
雛子が胸を張る。
「調子に乗りすぎ。旅行だからって皆にバラ撒いて。後からへこんでも知らないよー」
六華が溜息混じりに言う。
どうやら雛子は大盤振る舞いをしてきたようだ。
本当に将来一人暮らしできるのかなあ、こいつ。
「ま、ま、ま。たまにはこういうのもいいでしょ。たまには」
「まあ、たまにはね。部屋戻ってお菓子食べようか。刹那のお土産の八つ橋もあるし。お兄もおいでよ」
「女の子同士楽しんでおいで。お兄は部屋でゴロゴロしてるよ。夜に一緒に遊ぼう」
正直、この姦しい女の園に混じっていく勇気がない。
「そう? じゃ、行くけど。じゃあご飯時にねー」
そう言って、六華達は去っていった。
俺は部屋に戻ると、ポケットWi-Fiを起動して、YouTubeを開いた。
皆が楽しんでるならそれでいいや、と思う。
刹那も馴染んでるみたいだし。
一番の懸念が払拭されたなら、後は先輩は引っ込んでいるだけだ。
俺はトイボックスであずきと仲が良かった人々のその後を追ったりして、時間を潰した。
晩御飯の時間がやってきた。
あずき達の部屋で皆が食べることになっている。
懐石料理が出てきたが、皆味が今ひとつピンとこないみたいで、微妙な表情をしていた。
あずきと刹那は飄々とした表情をしているが、味がわかるのだろうか。
俺達庶民にはカルビーやマクドナルドの方がわかりやすい。
その後、もうひとっ風呂浴びようと部屋を出た俺達は、ある一室の前で足を止めた。
遊戯室だ。
自販機とベンチ。卓球台が二台置いてある。
「卓球大会、なんてのも面白そうだねえ」
あずきが閃いた、とばかりに言う。
「そうだ、卓球大会だ。優勝賞品は、岳志君を一時間自由にできるなんてどうかな? どう? 遥」
コラボ魔の悪い癖が出た。
この場を盛り上げようと突拍子もないことを言い出したぞ。
もちろん遥は拒否してくれるだろう。そう俺は信じていた。
「岳志が嫌がらない範囲でならいいわよ」
遥は面白がるようにあっさりと承諾した。
「じゃ、参加する人挙手」
六華が真っ先に挙手する。
雛子が遅れて挙手する。
アリエルは興味なさげに自販機に向かう。
刹那が恐る恐ると言った感じで挙手する。
幸子は周囲の面子を見て、苦笑交じりにベンチに向かった。
エイミーが挙手する。
参加メンバーは決まった。
六華、雛子、刹那、エイミー。
まあ六華も刹那もいい歳だ。
手加減はしてくれるだろうし、無茶も言わないだろう。
そう俺は安穏としていた。
六華と雛子、刹那とエイミーがそれぞれ卓球台へと向かう。
そして、ラケットを手に取り、球を軽く打ち合い始めた。
意外なのは刹那の不器用さ。
球に当てるのは正確なのだが、飛んでいく方向をコントロールできていない感がある。
その点、小学校時代に俺と遊んでいたエイミーは勘がある。
的確に刹那の隙へと打ち込んでいく。
意外とエイミーが勝ち上がったりするのだろうか。
そんな事を考えていると、あずきが声を上げた。
「練習、そこまで!」
エイミーと六華が球を受け止める。
「試合、始めるよー」
「おう!」
六華が猛々しく言う。
「はい!」
雛子は年上にはかしこまっている。
「了解!」
刹那は仕事の調子が出ている。
「わかったよ!」
エイミーは元気印だ。
「試合、開始!」
あずきが宣言する。
六華のサーブが雛子の横を鋭く通り抜けていった。
雛子は反応すら出来ず、唖然とその行く先を見送る。
エイミーがサーブを放つ。
刹那の体内に術が循環し、身体能力を跳ね上げる。
返球はエイミー側のエリアに深々と突き刺さり、高々と天井まで跳ね上がった。
六華も、刹那も、身体能力が違いすぎる。
エイミーも、雛子も、唖然としている。
(大人げない……)
俺は頭を抱えるしかなかった。
二人共、目がマジだ。
続く




