道中行脚
車が発進する。
年齢別に分けられた席分けといった感じだ。
運転席と助手席はあずきと先輩の保護者組。中央席は俺、エイミー、幸子の年中組。後部席は雛子、六華、刹那の年少組。アリエルは席の都合上猫になって先輩の膝の上にいる。
特に後部席が姦しい。
特に六華と雛子が教師がああだ男子がああだと盛り上がっている。刹那は飲まれつつもうんうんと相槌を打ち、時には発言も挟んでいる。いいぞ刹那その調子だ、と俺は心の中でガッツポーズをする。
幸子は体力関係のトレーニングの重要性について俺に説いた。控えめな幸子にしては珍しく先頭に立って発言している。それだけ俺のサボりを苦々しく思っているということだろう。九回を投げきる体力はまだあるのか? と問われて俺は返す言葉を失った。
ヘロヘロなら投げきれるかもしれない。
エイミーはサボったもんねえとカラカラと笑っている。
先輩とあずきは落ち着いたもので、時事関連の世間話で盛り上がっている。ザ・成人といった感じ。
こんな感じで言ってしまうとくっきりとグループ分けされているようにも見えるが、容赦なく他の席へも言葉は飛んでいく。
例えば幸子の発言に関しては、六華もランニング動画第二弾上げるついでにきっちり仕上げようね、などという相変わらずのブラコン発言をかましたし、清潔感がない男子について語る雛子に関しては、俺もお前の部屋は清潔感なかったけどな、と容赦なくツッコミを入れた。
すると周囲から、なんでお前が雛子の部屋を知っているのだと疑惑の視線を向けられてしどろもどろになるわけである。
男一人って肩身が狭い。
「岳志は私の部屋も知ってるよ」
刹那が不満げに口を開く。
「勝手に上がり込んだからね」
車の中の温度が数度下がった気がした。
「あれはお前の母親が押し入れたんだ!」
「だからってフツー寝てるとこに入ってくるかなあ」
刹那、頼む、空気を読んでくれ。
車の中は冬のような体感温度になった。
「恋人の部屋は知らないのにね」
先輩がからかい混じりに言う。
「知らないの?」
エイミーが意外そうに言う。
「じゃあまだ二人はその、そういうのになってないんだ」
俺はその発言をした雛子の頬ををつねった。
「お前ライン考えて発言しろよな」
呆れ混じりに言う。
「ふひはへん」
「遥と岳志君二人の部屋にしてあげよっか?」
からかい混じりにあずきが言ったことで場の空気が和らぐ。
流石あずき、歴戦のコラボ魔。
「やめてよ雫。岳志は一人部屋でしょ」
え、俺一人部屋なの。大人数旅行で?
(男友達欲しいなー……)
ちょっと前までむさ苦しい男だらけの空間に居たはずなのに今のこの男女比率は何なんだろう。
成り行きとはいえちょっとやり辛い。
俺にも相談話ができる男友達がほしい。二人でラインして女子達についてぶっちゃけ話してみたい。
「まあ一人じゃ可哀想だから私達が遊びにいったげるよー」
雛子がそう言ってけらけら笑う。
「期待してるよ……」
年少組の相手をするなら一人でYouTubeでも見ている方がよっぽど気楽なのだが。
「エイミーは麻雀するでしょ?」
あずきが言う。
「うん、パソコンの補助なしでもできるよー」
「お前、いつの間にそんなスキルを……」
「点数まで数えれます」
「アリエルもできるから面子は揃ったね」
あずきは満足げに言う。
「あいつ麻雀できんの? あいつの脳みそで役とか点数計算とかできんの?」
猫が威嚇の声を上げる。
「ネット麻雀三人で回してたら全員なんとなく覚えた」
エイミーが照れくさげに言う。
ああ、Vtuber仲間の繋がりね。
「じゃ、幸子も俺の部屋遊びに来いよ。俺には秘策がある」
俺にはとっておきがあるのだ。これさえ持ってこれば遠征じゃヒーローになれるというとっておきが。
「秘策?」
幸子は滑稽そうに訊く。
「じゃーん」
と言って、俺はポケットからUNOとトランプを取り出す。
「大富豪から七並べまでなんでもござれだ。キッズはこれで十分だろう」
「UNOなんて久々にやるなあ。いいね、楽しみだ」
大体これを持って行けば遠征試合などでも盛り上がったものだ。お菓子などを賭けるとなお白熱度合いが跳ね上がる。
「さて、お腹も空いてきたし、次のサービスエリアでなんか食べようか」
あずきが言う。
猫が情けなさげに鳴いた。
そっか。こいつ一人だけ先に現地に到着しているって周囲には説明しているからご飯食べれないんだ。
後からこっそり差し入れしてトイレででも食べさせてやろうと思った。
そんな感じで、やや衝突を生みながらも、順調に旅行はスタートを切った。
ちなみに、涼子に関しては俺と入れ違いに京都に戻っている。
やっぱり君はヒーローだったね、とやや切なげに言った姿が印象的だった。
続く




