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合流

 壁を蹴る、蹴る、蹴る。

 最早光は消している。

 全てを消滅させる複合術式の光。それは最早、壁を消滅させるデメリットしか存在しない。


 晴明にはここ五分ぐらい一度も肉薄できていない。

 人魂が増えたのだ。

 最初は三個ぐらいだった。

 それが、今は五個になっている。


 六階道家の身体能力向上術で速度を上げて回避を徹底しているのが今だ。

 その時、刹那は絶望的なものを見た。

 六個目の人魂が現れた。


 安倍晴明は徐々に半神としての力を取り戻しつつある。

 息を呑む。


 勝たなければならない。

 皆に力を託されたのだ。

 この力は、皆と共に未来を歩くための力だ。

 それを活かせず死ぬなんて嫌だ。


 皆と未来を歩きたい。

 友達が出来たんだから、一緒に遊びたい。

 六華とも、もっと仲良くなりたい。

 それはきっと、勇気が沢山必要なこと。


 けど、今はもっともっと前へと進みたい。


 回避、回避、回避、回避。

 全方位攻撃を壁から壁へと跳躍を繰り返して回避し続ける。


 そして、刹那はほくそ笑んだ。

 人魂を、上手く散らした。


 今、刹那の前には直線上の道。

 人魂は四方八方に散っている。


 ここからなら遠距離でも始動できる。赤乱華を。

 赤乱華はつま先から手の指先に至るまでの連動。それを心の臓に突き刺す一撃。


 歪んだ道ならともかく、直線上に道さえあれば、どのレンジからでも始動できるのだ。

 刹那は全てを消滅させる複合術式の光を宿して地面を蹴る。


「赤……!」


 晴明が微笑んだ。


「ここまで私に出させたのは君が初めてだよ」


 晴明は両手を向かい合わせた。

 中空に暗闇が浮かび上がる。


「あんこく」


(なんだ? これは……)


 吸い込まれる。

 慌てて着地して、踏ん張る。

 しかし、近づきすぎた。


 吸引される。

 なすすべもなく。

 数秒後には刹那の体はあの暗闇の中に吸い込まれているだろう。


 その先に待つのは何か、誰にもわからない。

 晴明にもわからないのかもしれない。


(え、こんなところで終わり?)


 母の顔を思い出す。なにも育ててくれた恩を返せなかったなと思う。

 メイドの里見を思い出す。歳が近いからもっと話せたのにな、と思う。

 あかねを思い出す。せっかくの初めての友達。これから仲良くなれるはずだったのに。

 六華の声を思い出す。彼女ともきっと、仲良く出来た。

 そして、岳志。


 死ぬなよ、って言ってくれた。

 友達になるよ、って言ってくれた。

 刹那は苦笑する。

 どうしようもなくなったら笑ってしまうものなのだろうか。


(ごめんね……ここまでだ)


 眩い光が走った。

 それは上空から晴明を狙い撃ちにして、暗黒空間ごと焼いた。


 暗黒が消え、吸引が止む。

 刹那は唖然として、上空から降りてくる人影を見上げた。


 見たことがある。

 そう、それは六華が一人で盛り上がった話を断片的に思い出してネットで検索して見た写真。

 岳志の初恋の人にして、今をときめく芸能人にして、日本で顔出しをしているのに米国での活動を主にする現役Vtuber。

 エイミー・キャロライン。


「馬鹿な……私の複合術式を上書きしただと?」


「あー、なんか人魂浮いてたりブラックホール出来てたりヤバい匂いぷんぷんするけど……間一髪ってっ感じかな?」


 若干情けない口調で言うと、エイミーは地面に着地した。

 そして、刹那の両手を握ろうとする。

 刹那は慌てて光を消した。この人危ない、光ってるから術が発動してる危険性について考慮しないのだろうか。

 手と手が握られる。


「間に合って良かった。私、エイミー・キャロライン。六階道刹那さんね、よろしくね!」


「……存じております」


 これがアメリカナイズという奴なのだろうか。

 あまりにも場違いなフレンドリーでフランクな態度に唖然とする刹那だった。

 と言うか、六華の話だとこの子、地元で孤立して一人でブランコに乗ってたところを岳志と出会ったはずでは?


(……聞いてた話と別人すぎる)


 二重で唖然とする刹那だった。

 まあ、考えてみれば社交性なければVtuberだの芸能人だのやらないよなあとも思う。

 エイミーは刹那の手を話すと、焼け焦げている晴明に向き直って指さした。


「さあ、安倍晴明。私とせっちゃんのタッグで形勢逆転。今ごめんなさいするなら許してあげるよ」


(ゆるっ! てかせっちゃんってなに!? 会って数分経ってないよね!?)


 なんか後期ドラゴンボールの世界にアラレちゃんが再登場してしまったような場違い感がある。


(ま、まあ、模造神の参戦は心強いと言うか……助かった。うん、助かったんだ、私)


 刹那は肩の力がいい感じに抜けたのを感じていた。

 緑色の光が輝く。

 回復術式は無言で安倍晴明の戦闘続行の意思を示していた。


 そして。

 人魂は七つになった。

 ぞっとする。

 晴明はまだ、戦力向上の余地を残している。


 命の危機から一転して援軍が駆けつけ、一時は安堵した刹那だったが、再び緊張感が全身を満たすのを感じていた。



続く

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