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とんでもないぞ?

 晴明の周囲を人魂が複数浮遊し始めた。

 それらは顔を持っており、牙を剥くと刹那に向かって襲いかかってきた。


「危ない!」


 あかねと紗理奈が異口同音に叫ぶ。

 刹那も直感的にそれが危ないと察しとっていた。


 六階道家の身体能力向上術の恩恵で回避する。

 しかし、後から後から人魂は追ってくる。


「怯えることはない。触れてみると良い。天にも昇る気持ちになれるだろう」


 晴明は微笑んで言った。


(……即死攻撃?)


 神とはいえどそんなのズルだろ、と思う。

 これであかねの見立てでは全力を出せていないというのだから恐れ入る。


 刹那は人魂を振り切って晴明に肉薄する。

 闇と光がふれあい、たわみ、融解する。

 刹那の拳が晴明の腹部にクリーンヒット、するかと思われた。


「――重力反転」


 晴明は再び微笑んだ。

 その瞬間、刹那は上空に向かって落ちていた。

 天井を消さないように光を消して着地する。


(ええい、次から次へと)


 こんなズル、術に長けたあかねや紗理奈ですら使ったことがない。


(本当、半神ってなんでもアリだな。とんでもないぞ?)


 前方に跳躍して人魂を振り切ろうとした瞬間重力が元に戻り、勢いよく地面に打ち付けられそうになる。

 両手で体重を支えて体を前へと押し出す。


 そして、壁に着地して、地面に降りた。

 人魂がそこに突っ込んできて、慌てて前方に跳躍。再び安倍晴明に肉薄する。


「重力……」


(同じ手は食わない!)


 刹那は高々と飛び上がると天井を蹴って、再び光を宿して晴明に襲いかかる。


「反転」


 突進の勢いが僅かに緩む。

 しかし、それ以上に刹那の跳躍は力強かった。

 重力に逆らって床に着地し、放った。


「赤乱華!」


 つま先、膝、腰、肩、肘、拳までを連動させる一撃。

 それを急所に突き立てる。


 晴明は壁を消滅させながら吹き飛んでいった。

 重力が元に戻る。


「やったか?」


 陸が言う。


「いや……」


 答えたのはあかねだ。

 その後を、刹那は引き継いだ。


「浅かった」


 無念さが滲む声になった。

 重力が反転していたから、踏み込みが足らず、今ひとつ力が伝わりきらなかった。

 重力に逆らう。中々に難しい。宇宙空間で格闘技が出来ないことを思えば自明の理だろう。


 格闘術も剣術も重力に従って地面に足をついて行うことを想定して設計されているのだ。

 それを思えば、重力を自由に操る今の晴明は刹那の天敵と言えた。

 しかし、ダメージを与えた恩恵か、人魂は一時的に消えた。


 晴明は中々戻ってこない。


「いい、刹那。晴明が重力いじったり色々してるのはあんたの格闘術を恐れてるからよ。術師としては一流の晴明も格闘術では二線級。近接戦は避けたいと見えるわ」


 あかねは冷静に分析する。

 そして、同時に言った。


「……皆は人質にされかねないし、今のうちに撤退しておこうか」


「うん、お願い」


 反論の言葉が上る前に、刹那は言っていた。


「あかねもね」


 あかねはバツが悪そうな表情になる。

 バレたか、と言いたげだった。


「私は体術の訓練も受けてるし、分析面でも役立つはずだわ」


「けど、危ないから」


 刹那は淡々とした口調で言う。

 そして、微笑んだ。


「皆の力は私と共にある。だから、気兼ねしないで、皆、全速力でここを離れて。晴明は私が足止めする。あの人魂が無差別に皆を襲ったら、私はもうなにをして良いかわからなくなる」


 沈黙がその場に漂った。


「迷ってる時間も勿体ないよ。お願い、早く逃げて」


 刹那は珍しく口数多く急かす。

 与一が一つ、頷いた。


「紗理奈、行くぞ」


「けど……」


「俺達が生きているだけでも刹那の力が増強される。無駄に命を危険にさらすべきではない」


 与一はそう言って紗理奈を抱き上げると、駆けていった。


「仕方ない。晴明を倒した刹那を倒して僕が最強だ」


 そう言ってはじめは駆けていく。


「重ね重ね言うが、勝てよ」


 陸もその場を去る。


「本当は、最後まで立ち会いたかった」


 あかねは未練を口にした。


「けど、私は皆に生きていてほしい。もしも私が死んだら、皆に刹那は立派に戦って死んだって語り継いでほしい。友達がいない私には、家族にそれを伝えてくれる人もいない」


「……わかったよ」


 あかねはそう言って、刹那に背を向けた。


「刹那」


 あかねは呟くように言う。


「ん?」


「私達、戦友だよね」


 世間話のようにそう言うと、あかねはだっと駆けていってしまった。

 刹那はきょとんとして、しばらくその場で絶句していたが、そのうち苦笑した。


「返事、してない」


(友達、できちゃったよ、岳志。勇気出して、戻ってきて、やっぱり良かった。勇気を出して、一歩進んだら、やっぱり何か変わるんだね)


 緑色の光が近づいてくる。

 風属性でなければ治療系の術の光だ。

 そしてそれは、おそらく治療系の術の光だろう。

 その術を使うために、闇が一時的に消えている。


 安倍晴明が、その場に戻ってきていた。


(私は皆ともっと前に進みたい。だからね。勝つよ。正直、分は悪いけど)


 その時のことだった。

 足元から、人魂が刹那向かって飛びかかってきた。


 慌てて後方へと飛ぶ。


「ああ、もう、なりふりかまってないね!」


「自覚はないのかな。自分が神の領域に徐々に近づきつつあることを。私が今の力を十全に使えていないように、君もその力を十全に使えていなかったというわけだ」


(神の領域に近づきつつある……? 私が……?)


 総合的に見れば、という話だろう。

 術方面では半神である晴明が圧倒的だ。

 しかし、晴明が軽視した人間である部分。体術的な部分が皮肉にも総合的に見た時の戦力差を肉薄させていた。


(私の十五年、間違ってない)


 人間づきあいもろくにしてなくて、修練ぐらいしかしてなかったけど、それも今日のためにあったならば納得いく。

 いや、本来は晴明に吸収されるためにそう仕組まれたのかもしれないが。


(創世の神よ、貴方はどこまで計算してこの世を作ったのでしょうか――)


 刹那は構えを取る。

 再び、晴明の周囲には人魂。


「さあ、命がけの鬼ごっこの続きと行こうか。君の人間性である上達の速さが勝つか、私の神性である術力の高さが勝つか、勝負と行こうじゃないか」


 息を呑む。

 それは、人と半神との尊厳を駆けたスプリント。


 油断はしないことだ。

 相手はまだどんな隠し玉を持っているかわからないのだから。


 場は膠着状態に陥った。



続く





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