六階道刹那対安倍晴明の幻影
「おお……」
与一が感嘆の息を漏らす。
「晴明のフィールドを相殺した!」
紗理奈が興奮気味に叫ぶ。
「いっけえええ刹那ああああ!」
あかねが吠える。
刹那は力を感じていた。
六人分の力。
六つの家に別れた当主達の力が、また一つになった。
それが今、刹那の体の中にある。
晴明の一撃を頬に受けた衝撃は脳を揺らす。
しかし、退かない。
条件は同じ。
もう一撃を繰り出す。
鈍い音と共に、互いの頬が跳ね上がる。
陰陽師と言うにはあまりにも泥臭い戦い。
術を極めた先にあった術無効化。その先にあったのは肉体と肉体のぶつかりあい。
「ふっ」
晴明は苦笑交じりに笑うと、後方に跳躍した。
刹那は後を追って跳躍する。
晴明は着地すると、腰を落とし、正拳を引いた。
光と闇が衝突する。
拳と拳がぶつかりあった。
「いけ! 刹那!」
はじめが叫ぶ。
「六階道、俺達の力使ってんだから負けんなよ!」
陸が叫ぶ。
心地いい。
最後のバトンを託されるのがこんなに心地よいなんて。
利害の一致だけの関係かもしれない。
しかし、今まで違う方向を向いていた他家の当主達と同じ方向を向けているというのが、今は心地よかった。
それが、刹那の力となる。
拳を押していく。
晴明の顔が僅かに歪む。
晴明は拳を引く。
刹那は前のめりになっていた分前へと進む。
そこに、ボディブローが突き刺さろうとした。
甘い。
身体能力向上に特化した術故に、格闘術を数百年と磨き続けてきた六階道家だ。
こと単純な近接戦闘になれば一枚も二枚も上手だ。
崩したバランㇲもそのままに崩れ落ち水面下蹴りへとスムーズに移行する。
踊るように相手の無防備な足を払い、バランスを崩させたところに立ち上がり肘打ちを叩き込む。
晴明が初めて、血反吐を吐いた。
身体能力の向上を腕一本に集中する。
そして、つま先から膝、腰、肩、肘、指先までを連動させ拳を捻りだす。
それは、螺旋状に相手の急所を突いた。
「赤乱華!」
心のままに叫ぶ。
術師としての才能と格闘家としての才能は別物だ。
術を極めた先、そこに肉弾戦闘があるとはまさか晴明も思いもしなかっただろう。
自分と同じだけ術を使える者がいなかったが故に起きた悲劇。限界。行き止まり。
その先に、たまたま自分という可能性が生まれ落ちたという幸運。
それを噛み締めて、刹那は晴明の心の臓を貫いた。
「やった!」
あかねと紗理奈が手と手を取って跳ねる。
陸と与一が疲れ果てたとばかりに座り込み、はじめは腕を組んだ姿勢を崩さないが安堵の涙を流す。
幻影は口から血を流し、信じられないとばかりに自分の傷口を眺め、そして光の粒子となって消えていった。
残るは、安倍晴明の本体。
輝く光の中に蠢く胎児のような何か。
その前に、六大名家集束状態の刹那は全てを無に帰す光を纏って立っていた。
続く




