闇と光と
「……な」
与一の日本刀は、安倍晴明を確かに捉えた。
しかし、その刀身は半分が最初からなかったかのように消えていた。
「逃げて、与一!」
紗理奈が悲鳴のような声を上げる。
それで我に返ったかのように与一は後方へと跳躍した。
安倍晴明の周囲をどす黒い闇が覆っている。
それがどうやら、与一の刀を消滅させたらしい。
あかねは顎に手を当てると、晴明に片手を向けた。
「与一、少し力、返してもらうわよ」
あかねとはじめが氷と風を同時に放つ。
それは、闇に触れて消えた。
二人の形相が変わる。
あかねは目を丸くし、はじめは息を呑む。
「複合術式……」
「それも、一つや二つじゃない……」
「ほう、優秀だな。当てただけで分析を終えたか」
晴明の周囲から闇が消える。それと同時に、晴明は残った指で札を取り出すと、自らの傷を癒やし始めた。
あっという間に断たれた指が生え、焼けただれた肌が元通りになり、衣服までも元の物に戻る。
「さて、どうする? 迂闊に近づけば消滅するだけだぞ」
晴明は余裕の表情で扇子を一枚開き、畳む。
「はじめ、あんたいくつの属性まで術を重ねられる?」
あかねは問う。
「三属性ってとこかな。得意なのは風だからそっちに偏るけど」
「なら、そっちに合わせて私が調整する。どうやら全ての属性を同時に高出力で発現すれば、あの虚無の空間が作れると見た」
「確かか?」
はじめの問いに、あかねはしばし考える。
「賭けるしかないでしょ」
「確かに」
はじめは苦笑した。
「どうでもいいわー。こうなった以上もう爆撃作戦も無駄だしね」
紗理奈は投げやりに言う。
「ええ」
あかねはそう言って、五人の力を集束させる。
そしてそれを、コントロールして、一人に託した。
刹那の体が力を取り戻す。足は羽毛のように軽くなり、体の周りには不可思議な神聖な光が発現する。
「私達の力。近接戦闘に長けた貴女に託すわ。六階道……いえ、刹那」
刹那は、頷いた。
「この力なら、後ろごとやれる。幻影を倒し、本体をも倒す」
「ほう……」
安倍晴明の幻影の周囲に再び闇が現れる。
刹那は光を纏って一歩を踏み出す。
二人は歩み寄り、そして。
五人が固唾を飲んで見守る中で、互いの頬に、拳を叩き込んだ。
続く




