犠牲
剣戟が響き渡る。
速度の俺。正確さの相手。
淡々と、しかし着実に追い詰められていく。
双剣の一本が弾き飛ばされた。
くるくると回転しながら短剣は飛んでいく。
終わった。そう思った。
こんなところで終わるのか?
エイミーも助けられずに?
幼馴染の一人も救えずに終わるのか?
先輩も置いて終わるのか?
死ねない、こんなところで。
そんな思いも知ったことかと言った感じで、相手の長剣が俺の腹に向かって走る。
ひらり、と白い紙が舞った。
それは俺と長刀の間に舞い降りて、人の姿と化した。
それは、涼子の姿になっていた。
涼子は血だらけになりながら、長刀を握りしめている。
「なっ……」
「彼氏の仇、ここで返させてもらう」
涼子はにやりと微笑んで言う。
「いけえ、岳志君!」
俺はレベルアップで強化された脚力で、一瞬で跳躍して、折笠の胸に短剣を突き立てていた。
折笠は唖然とした表情で、倒れた。
涼子も、倒れる。
「涼子さん、涼子さん!」
俺は長剣を抜いて、ヒールのスペルを唱える。しかし、通じない。
「神の一撃に人間のスキルはあまりにも無力にゃ……岳志の今の魔力じゃ、足りていない」
アリエルは視線をそらして言う。
涼子は、血を吐いて、苦笑した。
「ありがとうね、岳志君。彼氏の仇を討ってくれて」
「涼子さんのおかげだ。俺一人だったら、絶対に勝てなかった」
「君は、謙虚だなあ」
「約束したのに。仇を討つから、見ててくれって、約束したのに」
「そこだよ」
涼子は目を閉じ、ゆったりとした口調で苦笑した。
「その真っ直ぐさに、私は少し、惚れそうになっていた」
僕は唖然として、頬が熱くなる。
「秘密だぞ」
悪戯っぽく言うと、それきり、涼子はなにも言わなくなった。
「これで終わりだと思うなよ……」
折笠が言う。
まだ生きていたのか。
俺は構え直して、振り返る。
「エイミーに、神の権限を移譲した。今頃、神として目覚めているはずだ。人間としての人格は消え、神として動き始める。盛大な被害を人間界に与えるだろう」
「な……」
俺は唖然とした。
死の間際の嫌がらせとしては悪質すぎる。
「見たかったな。俺の手掛けた芸能人のゴールデン番組デビュー」
そう言うと、折笠は、光の粒子となって消えていった。
「行きなよ、ヒーロー」
涼子は言う。
「スペルは無理でも、人工的な縫合ならなんとかなるかもしれない。救急車を呼んで、私は放置しておいてくれ」
「けど!」
「幼馴染の、ピンチ、だろ……?」
俺は手を握りしめ、覚悟を決めた。
「ごめん、俺、行くよ」
「それで良い。一人でも多くの人を救ってくれ、ヒーロー」
そう言うと、涼子は口を閉じた。
クーポンの世界を閉じて、救急車を呼ぶ。
そして俺とアリエルは、エイミーの家へ向かって駆け始めた。
続く




