潜伏する者
「で、その東京に潜伏しているって悪霊つきはどんなタイプなんだ? 鬼瓦みたいな同化型か?」
「厄介なことに、分類的にはそうなるね」
涼子は、淡々とした口調で答えた。
冗談じゃない、というのが正直なところだ。
アイスケースを投げ飛ばすような怪力を発揮する同化型。
そんな奴が平然とした顔でこの地を歩いているとしたらちょっとした脅威だ。
「探すヒントはあるのか?」
「相手も対策はしていると思う。パッと見じゃわかんないんじゃないかな」
「じゃあ、俺達はなにを頼りにそいつを探すんだ?」
「それもあって私は君に接触したんじゃないか」
あっけらかんとした口調で言う。
「本当にいるんだろうな、そんな奴」
疑わしくなってきた。
「見る? そいつの暴れた現場」
そう言って、涼子はスマートフォンを操作して、差し出してきた。
想像しがたい画像が表示されて、俺は絶句した。
引きちぎられた死体、死体、死体。
「私はね、けしてこれを忘れないためにこの画像を持ち続けるんだ」
涼子の表情に、影がさした。
「わかった。悪かったよ、信じる」
「話が早くて助かるよ」
そう言って涼子は微笑む。
「私の力は見せたよね? 次は、君の番じゃないかな、騎士君」
しばし迷ったが、俺は決闘のフィールドのクーポンを展開することにした。
世界が白一色に染まる。
「この世界は完全に外界と隔離されている。時間の流れさえも。そして」
俺は一足飛びで涼子の背後を取る。
涼子は振り返り、札をポケットから取り出す。
それを、ファイアアローで焼いた。
「俺はこの空間では特別な世界で育てた力を使うことができる。退魔師として」
「なるほど……これが鬼瓦を下した力……」
涼子の目が徐々に輝いていく。
「勝てる。これならきっと、勝てる」
「まあ俺一人じゃできることにも限界があるけどな」
事実、アリエルの助力なしにはエリセルは倒せなかっただろう。
「もちろん、私も協力する。これは、私の仇討ちだから」
「……誰か、身内でも殺されたのか?」
さっき見せた陰りのある表情。
明るい彼女はなにかを抱えているように見えた。
「おや、気になるかい?」
「……深入りするような関係でもあるまい」
「賢明な距離感だ。君に好感を持ったよ、騎士君」
若い女性にそう褒められてしまうと、俺はなんだか照れてしまう。
「じゃあ、共闘関係成立ってことでいいかな?」
「あー……相談しなきゃいけない奴が一人いるんだが、とりあえずそれでいいと思う」
「決まりだ」
涼子は俺の手を握る。
柔らかい感触に、俺の頬は熱くなった。
「今度友達を連れてくると良い。季節外れの花見を約束するよ」
「わかった。約束だ」
話はまとまった。
こうしている間にも東京には悪霊つきが潜伏しているという。
俺は不安を感じつつも、焦っても仕方ないと自分をなだめた。
「手、離してくんない?」
俺はいい加減照れくさくなってきて言う。
「お、照れてんのかい?」
涼子がにやつく。
「うぶだなあ騎士君は」
そう言って涼子はぶんぶんと握った俺の手を振った。
騎士君呼びもやめてくれないしなんなんだろうこの人は。
続く