桜吹雪
仕事の時間はあっという間に過ぎた。
夕焼け時、店長に追い出されて店を出る。
外はまだ肌寒い。
「近所の公園だから車は置かせてもらおうか」
そう言って、涼子は歩き出す。
俺は、その後を半信半疑で自転車を押してついていく。
「数ヶ月前のことだ」
涼子が語りだす。
「とても強力な悪霊つきが出た。陰陽連は一個小隊を派遣して鎮圧に当たったが、見事に全滅。しかし相手も無傷では済まなかったのか姿をくらました」
「そいつを探しに、東京に?」
「占いで、そう出てね。東京に、出会いがあると」
「古風だねえ」
「事実、君に出会った」
狙って会ったんじゃないかな、と思わんでもない。
公園に辿り着く。
寒空の下、遊ぶ子はいない。
家でSwitchでもしているのだろう。
「さ、お代は見てのお返りだ」
そう言うと、涼子は手を振り上げた。
風が吹く。
暖かな風だった。
風を操作している?
その事実に、俺は畏怖した。
陰陽師。その肩書は伊達ではなかった。
「風の精霊とは懇意でね。色々と我儘を聞いてくれる。例えば、こんなことも」
そう言って、涼子が手を降ると、一本の木に桜の花が芽吹いた。
桜の花はひらひらと舞い、踊るように散っていく。
涼子はいつの間にか持っていたお菓子をこちらに投げる。
「これでも食べて、親善会といこうや」
俺は毒気を抜かれてしまった。
相手は手の内を晒した。
なら、少しは気を許してもいいか、と思った。
「俺のお願いを聞いてもらっていいか?」
「なんだい?」
「あんたを信用してもいいと思ったら、俺の友人達にもこの景色を見せてやってほしい」
涼子はにこやかに微笑んだ。
「お安い御用さ」
距離が縮まるのを感じた一瞬だった。
しかし、その前にせねばならない話がある。
東京に潜伏しているという悪霊つきの話だ。
続く