まさかの癒やし
食事を終えた。
俺は支払いをする涼子を置いて先に出る。
そして、俺達は店の前で向かい合った。
涼子は気さくに微笑んで車のキーを指で回す。
「乗りなよ、車」
「嫌です」
この不審人物に、これ以上関わりたくなかった。
「私達は敵、かな?」
「あんたは俺の心を盗み取ろうとした。敵じゃなければなんです?」
「嫌われちゃったなあ」
涼子はそう言って、キーをぱしりと握る。
「それじゃあね、騎士君。バイト先でまた会おう」
そう言うと、涼子は車で去って行ってしまった。
脱力感に襲われる。
家まで帰る気力すら沸かない。
けど、帰らなければならない。
まずは、この異常事態をあの駄猫に報告しなければ。
この状況を共有できるのは、この世界上に、あの駄猫しかいなかった。
しゃがんでいたが、立ち上がり、歩き始めてスマートフォンを握って、あずきの生放送をやっていることに気がつく。
何気なく開くと、見慣れないVtuberのアバターがあずきのアバターの隣りにいた。
猫耳、白い肌、金色の目の女。
嫌な予感がした。
「けどあずきはどうしてこの道を選んだにゃ?」
ずっこけそうになる。
そのアバターからは、アリエルの声がした。
「うーん、そうだねえ。私、人と関わるのが好きだからさ」
あずきはそう言って姉のように語る。
姉妹のように仲の良い二人の平和な時間。
それを、コメント欄も温かく祝福している。
守らなければ。
そんなことを思う。
なにがあっても、俺がアリエルを守らなければ。
駄猫であろうと、なんであろうと。
彼女は相棒なのだから。
不思議なことに、素直にそう思えた。
そう思うと、足取りが軽くなった。
家に帰る。
扉を開けると、炎の矢が飛んだ。
それは、俺の背後の透明ななにかに着弾して、燃え尽きた。
「式神がついてたにゃ」
アリエルが目を細めて言う。
「なにがあったにゃ?」
自分は、一人ではなかった。
思いがけないことだが、アリエルは俺の癒やしとなったのだった。
続く