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始まりはコンビニ強盗

 金属音が鳴り響く。

 白球が飛んでいき、大空に消える。


「飛ばすねえ」


「んだんだ」


 おじさま方が聞えよがしに言ってくる。

 それに気恥ずかしさを感じながら打撃練習に勤しむ。


 俺、井上岳志は高校中退のフリーターだ。

 野球推薦で高校に上がったが、部での水が合わず、気ままな生活を選んだ。

 もちろん親は猛反発。勘当をくらい、経済的には結構厳しい。


 そんな中、息抜きになっているのが高校の先輩に紹介された町内会の草野球チームの練習だ。

 本試合がそろそろ。

 四番ピッチャーの座を用意されている。


「タケちゃんー、わしらはそろそろ上がるけどバイトいかなくて大丈夫かい」


「いっけね」


 シャワーをして汗を流す時間を計算にいれるとかなりギリギリだ。

 帰り支度をしていると、借りている運動場の高校の野球部が朝練にやってきた。


 すれ違いざまに、言われた。


「負け犬」


 うつむき、振り返らずに進む。

 俺は俺の道を進むだけだ。

 けど、何歳まで?


 一度踏み外した道。

 親の支援もない。

 定職につけるのだろうか。結婚は?

 人並みの人生って中々難しい。


 シャワーを浴びて、着替える。

 そして、ほんの少し誘惑にかられて、パソコンの電源をつけた。

 SSDがほんの数秒も待たずにパソコンを立ち上げる。


 そして俺は、YouTubeで、くるみ柚香という名前で検索してみた。

 ちょうど生配信の真っ最中だ。

 ダブルクリックして放送を見てみる。


 くるみ柚香は、かつて人気があったVtuberだ。

 かつてというのは、彼女が明るかった頃。

 一時から病んだような語り口が多くなり、未来に絶望しているような様子が見て取れる。

 運営のストップがかかるのも近いのではないかともっぱらの噂だ。

 この悲壮さが、俺に勇気をくれる。


 おっと、このままでは本格的に遅刻だ。

 また見に来ます。

 そうとだけコメントして、パソコンの電源を落とすと、俺は家を出た。

 バイト先まで自転車で三十分。


 できるだけ元通学校の生徒の生活圏内は避けた。

 俺の人生の癒やしのお出迎えだ。


 神海遥先輩。

 大学生のアルバイターで、コンビニの品出しからレジ打ちまでオールラウンダーにこなしている。

 大学二年生でバイトも今年で二年目。

 教わることも色々多い。


 ともかくこの人が美人で優しくて、胸も大きい。

 胸が大きいというのは俺にとっては大きなウェイトを占める。


 こんな考えを知られればサイテーと言われるだろうが、知られないのだから問題はない。


「遥先輩、はざっす! 今日も一日頑張りましょうね!」


「八時からは出勤の人で本当大変だもんねえ。お辞儀のし過ぎで腰が痛いよ」


 そう先輩は苦笑交じりに言う。


「それじゃ、着替えてきます」


「それはいいけど、なに? その荷物」


「あ……」


 あまりに焦っていたので草野球のバットを持ってきてしまっていた。


「すいませんちょっと朝焦ってて」


「ロッカールームにでも置いときなよ。内緒にしといたげるから」


 そう言ってウィンクする。

 背筋がぞくぞくとした。


「いってきまーす!」


 駆け足でロッカールームへと進む。

 その時、来客を告げるチャイムが鳴った。


「金を出せ!」


 老男性の酒に割れたどら声が響き渡る。

 こうして、日常はあっという間に非日常に飲み込まれたのだった。



続く

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