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第30話 黎明解放戦線

 ヴェディタル平野。

 ヴィシュヴァー辺境伯領と帝都アルダシアのちょうど中間に位置する広大な平野である。広がる豊かな草が家畜達の餌に使われ、点々と存在する森からは木の実やキノコといった恵みを採取出来るそんな土地に、不似合いな音が響く。

 剣戟音、爆発、悲鳴、何かが地面に倒れる音。そして匂いに集中すれば、漂うのはひたすらに血、血、血、血──血の匂い。繰り広げられている闘争の産物が、長閑なヴィディタル平野を惨状に染め上げていた。

 攻め入るはレイン・シャクンタラ・ヴィシュヴァー率いる奴隷軍──本人達は黎明解放戦線と称している─総数100万の大軍勢だ。当初は数100人程度の僅かな数でしかなかったものの、スパルタクスの巧みな指揮と彼の持つ特異な力により各地にて囚われていた奴隷達を解放、合流を果たしていけたことに加え、周辺の貴族領も長年溜まっていた怨みを晴らさんと各々の持つ軍や民間人による義勇兵を率いて合流し、これ程の大所帯となっていた。

 対するのはヴィシュヴァー辺境伯領軍と第五、第七軍団から派兵された部隊により編成された反乱鎮圧軍だ。その総数10万人と黎明解放戦線の1/10程度しか居ない。だがそれは絶望的な戦力差では無かった。何故なら、反乱鎮圧軍のほぼ全員竜印─竜と契約し、従竜(フォロワー)となった者達だからだ。竜から溢れ出る竜気(オーラ)をその身に宿し、超人的な力を得ることが出来る彼等と違い、解放戦線に竜印を行使できる者は僅か1万にも満たない。

 更に、武装の面においても大きな隔たりが存在する。鎮圧軍の武装は剣や槍、弓といった武器に人体の急所を守るための鎧といった、各軍人に支給される量産品であるものの、人間を殺傷するには充分な代物だ。対する解放戦線でも奪い取った軍需物資を逐次支給していくものの、やはり総数が多すぎる為かその全てに行き届いている訳ではない。何よりも、使いこなせる者が少ないのだ。軍人や剣闘士ならともかく、女子供といった者が振るえるような物は帝国全土を探しても存在しないだろう。それ故か彼等の持つ武器のほとんどは石や木の棒といったものであり、中には素手で参戦している者までいる始末だ。

 数に勝るものの、勝ち続けなければならない解放戦線と、質に勝り、尚且つ国からの十分な支援を受け続けられる鎮圧軍。それは一方的な虐殺になる未来しか存在しなかった。

 

「に、逃げろ逃げろ!撤退だぁ!!」

「なんなんだ、なんな─ぶぎゃべぁ!?」

「支援は!?中央軍はまだかぁ!?」

 

 ──よって、解放戦線による一方的な虐殺が繰り広げられていた。

「や、ぁぁ!!」

「ひぎぃあぁっ!?!?」

 栄養が充分に摂れていないのだろう、痩せこけた女性が必死に両手で木の棒を振るう。本来なら、片手で弾き飛ばせる程度のそれは今回の戦いは違う。鎧ごと肉と骨を断ち割り、刃物でないにも関わらず人体を両断していく。

「せいっ!」

「ぽぁっ」

 見窄らしい、同年代と比べても小柄であるような子供が投げつける小石は緩やかなカーブを描き落下して、帝国兵に当たった瞬間頭部が柘榴のように弾け飛ぶ。

「なんなんだ、こいつら…」

 そこに顕現していたのは理不尽そのものであった。彼等の受けた説明によれば、解放戦線と名乗る奴隷の軍勢は大したことのない存在、その筈だった。栄養もろくに摂れていない、倒せば起き上がれないような非力な存在であると。にも関わらず眼前に起きているこれは何だ?

 非力な存在がただ木の棒や石、手足を振るうだけで味方が味方であった肉片(・・・・・・・・)へと変わり果てていく。だが彼等とてむざむざやられる訳はない。竜印を行使し、反撃を試みる。武器を掲げる奴隷達を炎が灼き、岩が貫き、水が切断し、風が薙ぎ倒していく。

「こ、のぉ!!」

「怯むな、奴等の竜印は俺たちには効かねぇ!」

「な、何なんだコイツら!?」

 だが倒れない。それどころか傷一つ付かない解放戦線の面々を目の当たりにして、鎮圧軍は動揺を隠せない。竜印すら持たない奴隷達の異次元な耐久に困惑し、そしてその隙に更なる反撃を喰らい地に伏していく。

 最早戦線を維持することは出来なかった。一方的な虐殺と化していく戦場に居座るべき理由は存在しない、徐々に徐々に後退し、やがて逃げ惑うようになるだろう。

「だれか助けて」

 それは正に懇願だった。誰でも良い、誰でも良いからこの地獄から解放して欲しいと切に願う帝国兵。しかし哀れ、それが叶う前にその頭部に木の棒─多くの肉片と血がこびり付いたそれが直撃する、その刹那。

 

「ハァァァァアアア!!!!」

 

 ──蒼白い炎が上空から戦域を覆い尽くす。炎で焼けぬなら、出力で押し潰すと言わんばかりに戦線を分け隔てていく。それを見た者たちは、2つの感情を胸に抱く。

 ─鎮圧軍は歓喜の声を。

 ─反乱軍は恐怖の声を。

 何故なら、帝国全土において|空を飛び蒼白い炎を操る・・・・・・・・・・・・はたった1人しか居ないから。

「私は帝国軍第七軍団総督、カレン・ファルジナである!反乱軍に通達する、速やかに武装解除し投降せよ!!」

 背中に異界言語において戦闘機と称されるような、蒼白い炎で構成された翼とブースターを展開するカレンが巨大な突撃槍を構えながら、爆音と噴煙を巻き起こして勢いよく着地しながら、反乱軍に叫ぶ。

「同じく、第五軍団総督、カルグ・トルキナードである!今ならまだ間に合う、さっさと降伏しな!」

 同時に土煙を巻き上げながら着地するカルグの姿もあった。身の丈を上回る巨大な盾を両手に付けた姿は正に生ける要塞であった。

「そ、総督達だ!東部方面の総督達が来てくれたぞ!!」

「そ、総督だ…!あの化け物達が来やがった…っ!」

 歓喜に震える鎮圧軍はその統制を取り戻していき、逆に反乱軍はその脅威を知っているからこそ統制を失いつつあった。

 

 

「……くっ、あの炎は…第七軍団のカレン・ファルジナ総督か……もう一つの影は、第五軍団のカルグ・トルキナード総督に違いない…」

 そしてそれは遠く離れた場所で反乱軍の指揮を取っていたレインも視認していた。如何に遠くとも、蒼白い炎による超高速接近は誰でも気付けるものだ。帝国が誇る最高戦力、まず凡兵では歯が立たないのは明白であり、こちらも最高戦力を差し向ける必要性があった。

「……スパルタクス殿、奴等の打倒が叶わねば…我々に、勝利は………?スパルタクス、殿…?」

 よって、反乱軍の最高戦力たる異界者(イテル)のスパルタクスに対処を願おうとするレイン、だが彼の姿はどこにも無かった。あるのは、抉れた地面と困惑する同志達の姿だけであった。

「…お願いします、どうか……我々に勝利を」

 

 

 

「カルグ、上ッッッ!!!」

「チィッ!!!」

 次瞬、上空から巨大な塊が降ってくる。咄嗟に盾と練り上げた竜気(オーラ)による強化を以て受け止めるカルグ。

「フハハハハハ!!!流石、流石は支配の轍を刻む者よ、これを防ぐとは何たる強者よ!!」

 盾を大きく蹴り飛ばし、2人との距離を取る飛来物─スパルタクスは高笑いをしながら改めて短剣(シーカ)と盾を構える。その姿を視認したカレンとカルグは内心舌打ちをし、同じように各々の武器を構える。

「とんだ化け物ね…」

「こいつぁ、増援が必要かねぇ…」

 眼前のスパルタクスの戦力は、人類種最強(ガルド・フォーアンス)には劣るものの、自分達に匹敵ないし上回るものであると判断する。

「必要無いわ、2人がかりで行くわよ」

「応ッ」

 故に、問題無し。自分達を上回ると言っても、それは単体での話。連携を以てすれば何ら問題はないと断言し、己の竜気(オーラ)を更に練り上げていく。

「フハハハハハ!!!自由なる黎明の為、私は前に進み続けよう!!!黎明解放戦線が指揮官、スパルタクス!!」

「第七軍団総督、カレン・ファルジナ!」

「第五軍団総督、カルグ・トルキナード!」

 

 よって、戦士達は己が名を叫び激突を果たす。蒼炎と城壁と剛力が、互いの信念と誇りをぶつけ合う。

 

「「「いざ尋常に、勝負!!!」」」

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